吸虫のごと悪鬼

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未奈(みな)ちゃん見つけた」 囁き声が耳元でして、私はお盆ごと人数分の湯呑み茶碗を落としてしまった。 せっかく用意したお茶だったのにな。でもー…。 (割れなかっただけでも良かったのかも) 狭い台所の床にうす緑色の水溜まりが広がっていく。 一筋の線を描くようにお茶が、夏子ちゃんの足の指を濡らす。 真っ白に塗られたペディキュア。 異様に細い足首をより奇妙なものへと見せた。 お葬式だというのに、夏子ちゃんは真っ白なマキシ丈ワンピースを着ている。 それだけじゃない。ボブカットの髪も白く染め、睫毛や唇も白く塗っている。 白のカラーコンタクトに白いピアス。 白で統一することにこだわっているのだろうか? どちらにしても悪趣味としかいいようがない。 「大丈夫?未奈ちゃん」 相変わらず近い距離で話しかけてくる。 「うん」 湯呑み茶碗を拾おうとしゃがむ。 そのままの姿勢で顔だけをあげた。 ぶつかる視線。 ケタケタケタ。 笑っている。何がそんなに楽しいのだろう。 「未奈ちゃんは怒らないんだね」 「怒って欲しいの?」 「別にどっちでもいいよ。夏子はどっちも好き」 何とも言葉に詰まってしまう答えだ。 「依ちゃん、死んじゃったね」 夏子ちゃんは自分の母親のことを〝依ちゃん〟と呼ぶ。 それは昔からだ。 依子さんはそう呼ばれるたびに表情を険しくさせていたっけ。 「そうだ!未奈ちゃんにこれあげる!」 「……クッキー?」 「そう!家で留守番している間、ヒマだったから作っていたんだ」 依子さんの告別式に夏子ちゃんは参列させてもらえなかった。 その理由がわかる気がする。 服装だけのせいではない。 母親が亡くなったというのに、夏子ちゃんはずっと笑顔を浮かべてばかりいるんだもの。 失礼な言い方だけれども、頭のおかしな子にしか見えない。
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