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「んん?!」
そんなことを考えていたら、無理矢理クッキーを口の中に放り込まれた。
しかもねじりながら押し込んでくる。
噎せそうになるのを堪えながら、何とか咀嚼した。
「どう?美味しい?」
「…うん」
「やった!いつもお正月には、夏子の手作りクッキーを食べてくれるよね」
鼻歌交じりにそう言うと、抱きついてきた。
そんなに喜ぶところ?
「これで未奈ちゃんも将来は依ちゃんみたくなれるね!」
思わず顔をしかめた。冗談だとしても笑えない。
夏子ちゃんに嫌悪感を抱く。
さりげなく彼女の肩に手を乗せて、そのまま後ろへと押した。少しの距離が生まれる。
夏子ちゃんは、一瞬だけキョトンとしたあと、真っ白な瞳を細めた。
真っ白な唇もつり上げた。
「依ちゃんが亡くなったことだし、夏子もこの身体とさようならをするの」
「何を言っているの?簡単にそんなことを言っちゃダメでしょう!」
「だって一人で生きていても楽しくないし」
「やめてよ!大体、自分の母親が亡くなったっていうのに悲しみもせずにクッキー作りって、やっていることがおかしいよ」
思っていることをオブラートに包むこともせずにぶつける。
かなり大きな声になってしまった。
「悲しみ方なんて人それぞれだよ。これでも依ちゃんが亡くなったことを悲しんでいるんだよ」
「……あ……」
夏子ちゃんはうつむく。
マキシ丈ワンピースの裾を握りしめる手は貸すかに震えている。
言い過ぎた。彼女の言う通りだ。
悲しみ方は色いろある。
クッキー作りはそんな感情を誤魔化すためにしたことなのかもしれない。
そうだよ。母親を亡くしたばかりなのに私っでば何てことを。
「あの…夏ーー」
「なぁんて!」
「え」
「嘘だよ!依ちゃんが自分で選んだ最後だもんね!」
ケタケタケタ。
笑いながら台所から出ていってしまった。
「…何なの?」
誰にともなく呟く。私はしゃがんだまま、暫く呆然としていた。
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