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「桜子ちゃん。一緒に遊べなくてごめんね」
また勝手に言葉が出てくる。
〝桜子〟って名前を親しげに呼んでいる。 ……桜子さんって、確か母のおばさんにあたる人だよね。
ずいぶんと前に亡くなったことぐらいしか知らないけど。
「お喋りできればそれでいいよ」
「うん」
「依ちゃんは結婚する?したい?」
「約束した相手はいるよ。桜子ちゃんは?」
「桜子?桜子は結婚しないよ。だけど家族はできるの。そういう仕組み」
「仕組み?」
「うん。そう。そうだ!依ちゃんにこれあげる」
「クッキーだ!」
「依ちゃんのために作ったんだよ」
「いつもありがとう」
ああ、もう!夢はいつも好き勝手だ。
自由にさせてくれない。
私はクッキーを貰うと食べた。よく知る味だ。
夢でも味覚ってあるんだ。
でも所詮は夢でしかない。
いつか覚めるときがくる。
目覚めてしまえば、夢の内容も忘れているだろう。
襖が軋む。
音を立てながら開くと、見知らぬおばさんが入ってきた。
両腕に幾つものオモチャを抱えている。
「依子ちゃんは寝ていないといけないの。おまえはこちらにおいで」
「桜子ちゃん。クッキー美味しかったよ」
「良かった!」
二人のその会話を聞いて、おばさんの顔がみるみる青ざめていく。
オモチャが腕から畳に落ちて、散らばる。
「おまえ……?!依子ちゃんに食べさせたのかい?!」
ケタケタケタ。
桜子さんは夏子ちゃんと同じように笑う。
「じゃあね、依ちゃん!」
「待ちな!」
仏間から出ていく桜子さんをおばさんが追いかけていく。
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