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おそらくだけれども、私は今、依子さんになった夢を見ている。
桜子さんたちがどこへ行ったのか知りたい。
何故かそう思う。
問題は私の思う通りに身体を動かせるかだ。
手のひらを閉じたり開いたりする。
(何とかなりそう)
布団から這い出ると、音を立てないように静かに襖を開けた。
わずかな隙間から顔だけを出して様子をうかがう。
長い廊下が左右に伸びている。
やけに薄暗い廊下は不安を煽る。それに湿っぽい。
一歩進むたびに汗ばんだ足の裏が床に張りつく。外ではセミがこれでもかというぐらいに大合唱をしている。
夢だというのに、立っているのも辛くなってきた。
四つん這いになって進むことにする。
その方が楽だ。
私は依子さんになっていて、彼女は風邪らしい。
仏間に戻って大人しく寝ていた方がいいだろう。それが現実ならばの話だ。
(二人の様子がどうにも気になるしな)
桜子さんたちを探して動き回る。
膝小僧が痛くなってきた。
諦めるしかないのかもしれない。
向きをかえたとき、それは聞こえてきた。
ドタンバタン、という物凄い音がする。
導かれるように向かった。
明かりが見えてきて、私はそっと覗き込む。
そこは台所だった。
夏子ちゃんとのやり取りを思い出す。
真っ白な姿の夏子ちゃん。
だが当然、そこにいるのは彼女ではない。
桜子さんとおばさんだ。
おばさんの背中しか見えないな。
身を乗り出す。
視界に入ってきた光景に、ひっ、と悲鳴をあげた。
慌てて両手で口をおさえる。
おばさんが馬乗りになって桜子さんの細い首を絞めている。
おばさんの顔ーーまるで般若みたい。
ううん、違う。
目は血走り、唇からは泡が吹き出てて、今まで見てきたことのないおぞましい表情をしている。
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