壊れた日常と濃すぎるモブ達

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「先輩、朝メシ持って来たっスよー。」 朝、日光、忌々しい物。今日もゴミカスをやっている俺に対して、カーテンの隙間から砂にしようと狙っているのだ。毎日毎日俺の為にメシを作る後輩は今日も部屋にやって来た。ゾンビの様に這いずりながら地を歩く俺に対して後輩、桐生凪(きりゅうなぎ)が近づいて来た。鞄から風呂敷に包まれた弁当を取り出し、折り畳み式丸テーブルの上に置いた。凪は泥になっている俺の四肢を動かし、背もたれ付きの床座に座らせた。甲斐甲斐しい世話を焼かれているが、生憎と俺が返せる物は何も無い。何故俺の世話を焼くのか疑問だった。 「今日は用事があるから遅くなるっス。」 「…………クソ。」 畜生、畜生だ。俺もお前も。施しを受けられておいて、何も返せない。お前は俺を都合の良い物としか考えてない。クソだ。最初に言ったあの言葉。心底吐き気がするよ。泥の腐った匂いに紛れて、又お前が言ってくるんだろうな。ゴミ山に埋もれた俺を丁寧に引っ張り出してくれるんだろうな。だって俺は丁度いい器だから。信用出来ねぇ、信頼出来ねぇ。糞まみれの脳味噌をお前が啜ってくるだけなんだ。救世主(メシア)みてぇな顔をして、救う(巣喰う)言葉を吐くんだ。 「先輩、今日もやった方がいいスか?」 「…いちいち聞くな。」 「了っス。」 そう言って凪は出て行った。俺はぼんやりと外を見る。今日こそ行こう、今日こそしよう。そんな事を考えていたのはまだ希望が持てていたから。今となっちゃ考えることすら嫌になる。何も考えず寝ていたい、一生寝て過ごしたい。凪に植えられた果実は今日も大きくなっていく。根深く、頑固に、お陰で俺はアイツに飼い殺しにされている。死にたい。死にたくねぇ。そんな事ばかりぐるぐるぐるぐる回って、穴と言う穴から髄液が飛び出ちまう。練習もした本番もしたアイツが来るまで何回失敗したことか‼︎…数えるのも億劫だ。弁当は俺の好きなモンばかり。 何も出来ない。 何も知らない。 動かない。 動けない。 疲れた。 「先輩ー夕食っスよー。あっ、今日は食べたんスね。」 「なぁ………『いつもの』…やれ。」 俺は救いの言葉を求める。アレは猛毒だ。ヤクだ。アレは俺と言う存在を肯定する魔法の言葉。誰もが希う言葉を俺だけか満足に受け取っている。…満足はしていないが。 「…了っス。先輩。」 「先輩お疲れ様っス。もう休んでいいっスよ。むしろ頑張り過ぎっスね。明日も好物入れましょうっス。先輩はそのままでいいんス。おやすみなさいっス先輩。………辛かったっスね先輩。」 暖かい温もり。凪が俺を抱きしめている。じんわり暖かくなり、俺はゆっくり瞳を閉じた。
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