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月が綺麗な夜だった。
[鬼塚side]
果たし状が下駄箱に入っていた。舎弟が人質になっているから、放課後路地裏に来いっつう内容だった。俺は果たし状を握り潰し、そこら辺に投げ捨てた。
路地裏には20人ぐらいの男が集まっていやがったが、俺にとっちゃあ甘いぐらいだった。
結果、俺は一発も喰らう事は無く奴等をボコボコに出来た。当たり前だが。
血濡れた拳で積み上げたクソどもの山に登る。…結局俺の舎弟は裏切り者だった。何となく分かっちゃいたが、どうしても俺を止められなかった。助けようとしちまった俺の甘さが悪りぃ。もうどこに舎弟が居るかわからねぇが、きっと山ん中にでも居んだろ。
「…ン?」
遠くから足音が近づいて来る。足音の間隔からして、体格は俺より小せぇ弱い奴。ローファーだな?これは。こんな所に近づいて来るなんざ馬鹿な奴だ。今、俺は気分悪りぃからいい気分転換になればいいがなぁ…。
3メートル
喧嘩売ってきやがったら嬲り殺してやろう。
2メートル
ぎゃあぎゃあ喚く野郎だったら捕まえてパシリにしてやろう。
1メートル
関係ねぇ奴だったら口封じして逃がしてやるか…。
0メートル
「…ア"ァ"?誰だテメェ。」
…ソイツは突然現れた。
俺はいつものチンピラ野郎だと思っていたが、予想は大きく外れた。
濡羽色の髪、小麦色の肌、ほんのり色づいた桜色の頬。ぷるんとした唇は先端が丸い棒付きキャンディみてぇだ。月明かりに照らされているその姿はスポットライトに当たる演者の様だった。真っ黒で底が知れねぇ目ん玉には月が浮かんでいる。
(…はぁ?)
天の川に居る天女や、誘惑するが誰のモノにもならねぇ淫魔みてぇに手を伸ばしても届かねぇ誰にも触れさせないオーラがあった。
(…………?)
目を奪われた。心が跳ね上がった。耳の奥でうるさく鳴る心臓の音なんざ気にも留めない程だった。一瞬、されど一瞬。目が合っただけで顔が熱くなり、蒸気が出てきちまう。
(なんだなんだなんなんだ⁉︎)
ずっと見ていたい。触れてみたい。俺だけを見てほしい。俺だけが触れていたい。他の奴がコイツに近づかない様に囲ってやりたい。
笑った顔が見たい。怒った顔が見たい。泣いた顔が見たい。
(…あぁなんだよ。そう言う事かよ。)
___堕ちる音がした。
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