体育祭

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「お、鬼塚⁉︎どうして此処に‼︎」 「説明は後だ!とにかく早く隠れねぇと…。」 鬼塚は起き上がり辺りを見渡す。僕は椅子からおりると廊下の先から「鬼塚ー‼︎居ないのか!返事をしろー!!!」と声が聞こえた。つい最近、聞いたことがある気がする…。鬼塚はその声を聞くと、両手で腕を押さえガタガタ震え始めた。 「き、来やがった…!」 「あの、来たって何が…?」 「それより隠れる場所は⁉︎」 「えっと、そこにロッカーが…。」 僕はすぐ近くのロッカーを指差すと、手を掴まれ入れられた。そこに鬼塚も入って来る。狭く暗い密閉された空間で、ぎゅうぎゅうづめになった。 外から扉の開く音がして、また聞き覚えのある美声が聞こえた。 {チッ…生徒会長、もう来たのか。} (…生徒会長?) え? {ちょっと⁉︎聞いてませんよそれ!} {わ、おま聞こえるって!} {むぐ!?} 前から思いきり抱き締められ、身動きが取れなくなる。ジタバタと暴れてみるが、そもそもこんな密閉された空間では意味を成さない。 大きい身体が僕に覆い被さる。 動けない (あっ…。) 息が苦しい 鬼塚の吐息と鬼塚の人肌と鬼塚の汗の匂いが僕にねっとり染み付いた。 息が苦しい 掌は生暖かく背中からやけに感触が伝わった。 (あ、あぁ) 視界が揺れて、回り、思わず目を瞑った。 (やだ…こわい…) あの時もそうだった。 豚の様な腕に、興奮した息遣い。 (…だれか) 僕を蝕む汗の匂い。 「ゔえぇ…。」 {…黒野?大丈夫か?} 「もうやだ…誰か…。」 {…黒野!} 三人称視点 黒野の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。いつも白い肌は青く小さく身震いしているそれから、鬼塚は恐る恐る手を離した。前にもこういう事は起こった。何が原因かははっきりとは言えないが、少なからず黒野鈴の心に何らかの傷がある事だけは彼も分かっていただろう。それが黒野に対して牙を剥いたのだ。鬼塚に在るのはただ怒りと言う感情だった。燃えるような怒り。黒野を苦しめる"何か"への怒り。人生で経験したのは三度目だった。 鬼塚ははくはくと息を吐き、どうするべきかを考える。黒野を苦しめず、この場を逃れる方法。 それが__ 「なぁ、黒野。お前に大事な人は居ないか?」 「…?」 黒野はぼんやりした思考の中、鬼塚の言葉を待った。 「…誰か信頼出来る奴を想像しろ。」 __自分を犠牲にする事だった。 「…!」 「…俺じゃ役不足なのは分かってる。でも、今はこうするしかねぇんだ。」 鬼塚は今にも死にそうな顔をしていたが、黒野はぼんやりした思考の中に居たからかそれに気付く事は無かった。 黒野は落ち着いた思考の隅から自身の思い当たる信頼出来る人を探った。いや、探る必要はあまり無かった。信頼出来る人など片手で数える程度しかいなかったらからだ。その中で鬼塚に特徴の合う人を見つけ出した。 ゴツゴツした手。 多種多様な傷跡。 筋肉質の肉体。 それは黒野にとって警察官だった父にあたるものだった。 「…頭を」 「ん?」 「頭を撫でて下さい…。」 鬼塚は腫れ物を扱う様に指先から少しずつ、丁寧に撫でた。黒野はそこから今は亡き父の面影を思い出し、静かに泣いた。
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