体育祭

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「…誰か信頼出来る奴を想像しろ。」 死にてぇ。 鬼塚の心情を表すたった一つの言葉だった。 「…俺じゃ役不足なのは分かってる。でも、今はこうするしかねぇんだ。」 (そうだ。俺なんかじゃ役不足だ。俺が近づいても黒野を苦しめるだけ…。 …なのに …なのに なんでかな… お前を手放したくないんだ。) 可愛い黒野。大好きな黒野。自分が似合わないなんて重々承知だった。話しかける度、顔を見る度、俺の心はいつも締め付けられていた。そんな時はいつもいつもアイツらの顔がよぎる。 『いつまでたってもお前は駄目な人間だな!あぁ違うか!人間じゃない。お前は奴隷だったなぁ!』 『…鬼塚、お前など私の息子ではない。今すぐこの部屋から出て行け!』 誰かが言った。身の丈に合わない幸福を求めるといずれ破滅すると。それでもいいと思った。それが良かった。あの時救ってくれたのは間違いなくお前なんだから。俺みたいな奴は破滅するのがお似合いだから。 (でもよぉ!…そりゃねぇだろ、神様。) 黒野の傷は誰にも癒せるものじゃないと心のどこかで油断していた。あの傷が隙だらけの黒野の防衛反応だと。傷さえあれば誰も黒野に近づかない、触れられないとそう思っていた。 黒野が頭を撫でてと言った時、俺の心は悲しみと嫉妬で張り裂けていた。 (なんで俺じゃないんだよ‼︎なんで居るんだよ‼︎) (あぁそうだ!分かっていた筈なんだ!) (…黒野にも居るんだって………分かっていた…筈なんだ。) (…俺じゃだめなのか?) (…もういやだ。) (…もうつかれた。) (…………しにたい) ___「…お父さん。」 (え) (…お、父さん?) 黒野は安心しきった顔をしていた。俺が一度も見たことがない表情…じっとりと胸の奥が痛い。 でも、父親なら大丈夫だ。…だって父親は子供を愛すことは出来ても、欲情することは出来ないから。 (…あぁ) (…あぁ!) (良かったぁ…!) (だよな!だよな!そうだよなぁ!良かった。良かった。本当に良かった!黒野に信頼出来る奴が"居なくて"!) 「はは…。」 酷く安心している自分が憎たらしい。普通なら、知り合いなら、好きな人の幸せを喜ぶべきだ。…でも、俺は違うから。普通じゃないから。 (…だから だから、どうか、こんな俺を許してくれ…。)
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