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じわじわと蒸し暑い金属の箱の中で、僕はこの悪趣味な企画が終わるのを待った。幸い誰にも見つからず、チャイムが鳴り体育祭は終わった。
背中に張り付く嫌な汗が不快だった。
僕が後片付けをしていると健斗は嬉しそうに近寄って来た。
「黒ちゃ〜ん、聞いて聞いて。先生に捕まったの!」
喜色満面の笑顔を浮かべ、腕を上下に振り回しながら健斗はそう言った。
「良かったね。健斗。僕は誰にも捕まらなかったよ。」
「えっ!?凄いね黒ちゃん。」
健斗は驚いた顔を見せると、すぐまた先生トークに戻す。いつも通りの友人を見て、僕はなんだかホッと息を吐いた。
(……。)
「…ねぇ、健斗。鬼塚を見なかった?」
黒野は不安げな表情で、健斗に聞いた。あの後鬼塚がどうなったのか、黒野には予想も付かなかったのだ。しかし、最悪の事態は自身も体験したことがあったのか容易に想像出来た。
そんな黒野とは対照的に健斗は知らず顔で答えた。
「鬼塚?知らなーい。探してるの?」
実際知らないのだ。無理のない。黒野は事情を話そうか一瞬悩んだが、
「…ううん。なんでもない。」
話さぬことにした。生徒会と言う大きな組織が関わっている以上、親しい友人を巻き込む訳にもいかなかった。
もし仮に黒野が話していたら、優しい彼は自ら進んで手伝っただろう。そんなことで、彼を失いたくなかった。
「……そっか!」
健斗はそんな黒野の様子に気づかなかったのか、笑って再びとりとめのない会話を始めた。黒野は鬼塚を頭の片隅に追いやり、目の前の話に集中した。そうすることで、また日常に戻れる気がしたから。
片付けが終わり、帰宅する手前になっても、鬼塚は黒野の前に現れなかった。
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