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俺の人生は無価値だった。
『俺』と言う意識が生まれた時、目の前に在るのは目を合わせぬ父と優しい母だった。その時から既に、俺への愛情はとうに失せていたのだろう。俺の事は【鬼塚グループ】の跡取りでしか無い。
父はそういう人間だ。
俺は遅くまで帰って来ない父にほんの少しの寂しさを抱いていたのかもしれない。
母は言った。
『あの人はね、お金でしか人を愛せない不器用な人なの…。お父さんを嫌いにならないでね、獅己。』
俺は疑問に思った。
何故金に頼るのだろう。
そんなことをしなくても
愛というのは態度で、言葉で、示せば良いものだ。
母は態度で、言葉で、俺を愛してくれた。俺のことを見てくれた。心からの愛が俺のスキマを埋めてくれた。間違いなく幸せだった。
………だが長くは続かなかった。
母は亡くなった。
死因は心臓病だった。
幼かった俺は事実を受け入れられず、何故母が居なくなったのか分からなかった。父と葬式に出たが、父は涙を流さなかった。
…それが憎くて憎くて仕方なかった。
母が居なくなってからは、父親から愛されることを望んだ。スキマを埋めて、安心する為に。俺は"俺"でいて良い理由が欲しかった。
何でもした。知恵も、力も、人気も、全て努力した。父親に認めて貰いたかった。
…見て欲しいだけだった。
(なんでお父さんは、褒めてくれないんだろう。)
(どうして見てくれないんだろう。)
(俺が駄目だから…?)
(跡取りに相応しくないから…?)
(なんで…なんで…なんで…?)
父が俺を見ない事に泥臭い執着を抱き始めた。
もっともっと父が見てくれるように
もっともっと愛されるように
もっともっともっと……
ある日。父が俺を連れて外出をした。俺に小洒落た服を着せ、父はいつものスーツを着ていた。俺は珍しい父親との外出に内心嬉しく思った。
『鬼塚、挨拶しろ。』
輝く金髪に、赤い目。俺が初めてソイツと出会ったのはその日だった。
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