鬼塚の呪縛

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人が綺麗な物を見つけた時は、誰にも取られないように、宝箱に仕舞おうとするだろう。 だから俺様も大切に、大切に、逃げないように、取られないように、箱の中に仕舞っておこうと思った。 モルガナイトの髪に、ペリドットの眼。数ある宝石の中でも、一際輝く彼の名は___ 『初めまして…鬼塚獅己です。』 『…そうか。鬼塚…か。』 『俺様の名は金谷朱勝だ。…よぅし決めた!』 『貴様は俺様の奴隷となるがいい‼︎』 『…ハァ⁉︎』 それが俺と奴の…初めましてだ。 つくづく嫌になる。あれから俺は人の扱いを受けていなかった。いや、別に、本当の奴隷の様な扱いを受けた訳じゃないが。…所謂パシリの様な物だった。何か有れば直ぐ俺を呼びつけ、やれ喉が渇いただの、小腹が空いただの、しつこく煩かった。 父親の事、母親の死、金谷の暴君、折り重なった事で俺は荒れに荒れた。 そうして俺は、ある一つの答えに辿り着いたのだ。 『ぎゃあ"!』 『ゴッパァ!』 『イギィッ!』 拳が血で濡れる度、相手の悲鳴が聞こえる度、俺は_ 【俺は…あぁ、生きている‼︎】 相手が動かなくなると、俺には虚しさだけが残った。少し暗くなった空に、動かぬ地面。肌色の山から降りたら、俺の時間は終わり、いつもの日々に戻る。 だが、いいこともあった。 俺が暴力に溺れたあの日、親父は初めて俺を殴った。 愛だ。 父親からの愛情。 其れは魔法のようで、麻薬のようで、甘美なる危うさに溢れていた。 幸せとはこのことだった。 だから殴った。拳が滲み、擦り切れるまで何度も何度も殴った。その後に、必ず父は俺を殴った。 (嬉しい。) (嬉しい嬉しい‼︎) (もっと俺を見てほしい!もっと俺に触れてほしい!) (もっともっともっともっともっと!!!!) あ      い           し                      て _ __ ___ 溺れ切った後だった、俺が目を覚ましたのは。その時にはもう喧嘩は日常茶飯事で、生傷は絶えない体になっていた。 毎日が地獄で、それでもなお息がしたかった。その結果がこれだ。 …笑わせんなよ。 こうなりたかった訳じゃない。もがいていたらこうなっただけだ。 目を瞑ると、あの日の事を思い出す。 深海から俺を引き上げてくれたあの人。 愛しい人。 大好きな人。 凡庸で、非凡で、美しく、月並みの 優しい人。 絹の様に柔らかく、月を映す黒の髪。平均よりやや細い、青が混ざった雪の肌。桃色の唇に、朱と交わった蜜柑の頬。 墨汁の様に真っ黒で、くりくりとしたまあるい目。鈴の様な可愛らしい声。 雷に打たれたようだった。 実際撃たれた、ばきゅーんって。 本当の愛を見つけ、恋の病を患った俺はハッと目を覚ましたのだ。 親父、クソだなと。 正直、あの金谷と同じ学校に行くつもりは無かったが、セキュリティや会社関連を含めると其処しか残っていなかった。 が、結果としては満足している。 黒野に会えたから。
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