鬼塚の呪縛

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生徒会室。 其処はこの学校の、地位、名声、富、全てを集めた箱庭。何百人もの人の中から選ばれた人間でしか入れない楽園。 床に敷かれた真っ赤なカーペット、様々なトロフィーや賞状の入ったガラスケース。中央に鎮座するは木彫りのされた長机。そこに柔らかそうな椅子が一つ置かれている。その周りを囲む様に小さな机と椅子が並べられていた。全て普通の学校には無い、唯一無二の代物である。 その楽園に今、不釣り合いな異物が混入していた。 「…で?何の用だよ。何もなけりゃあ俺は帰るぞ。」 「決まっているだろう?貴様がコソコソとやっている事についてだ鬼塚。」 「…何の事だよ。」 鬼塚はぼりぼりと頭を掻き、辺りを見渡す。 好奇の目、疑わしげに見る目、蔑む目、鬼塚を取り囲む目の数々は普通の人からすれば天国に登る心地だったろうに。 ここに居るのが己で無ければ、どれほど良かったか。 「惚けるな鬼塚。あれだけ堂々と活動しておきながら、秘密裏にしていたつもりか?」 金谷は、俺の襟首を掴むと自らの方へグイッと引き寄せた。俺の反応が何も無いのを確認すると 「…まぁいい。今回は忠告だけで済ませたが、次は無いぞ。」 パッと手を離した。 「…そーかよ。」 彼にも体制というものが在るのだろう。ここで俺という不良を野放しにしては、生徒会の評判も下がる。ただでさえ校内は転校生の所為で荒れているというのに。それに俺の存在は、体育祭で保護者勢にも顔が割れている。 [学校の不良、鬼塚獅己]が何か怪しいコトをしているぞっと。 {何故こんな不良が金谷様に気に入られているんだ‼︎納得出来ない!私ならもっと…ぶつぶつ。} 俺は大きく欠伸をし、金谷の後ろでぶつぶつ呟いている副会長(メガネ)を見た。 アレが黒野が言っていた「超絶イケメン」らしい。 「「ねぇねー。」」 「ん?」 「カイチョー様にそんな口がきけるなんて、キミ勇気あるねー?」 「カイチョー様と、どうゆうカンケイ?」 生徒会の双子が話しかけてきた。どうゆう関係も何も…。 「…なんでもねぇよ。」 「「ウソだウソだー!絶対なんか隠してるー!」 アイツとは関係なんて持ちたく無かった。 「おい、詮索はそこまでにしろ。伊織、沙織。」 金谷は二人を制すと、こちらに近づく。 「あぁそうだ。一つ言い忘れていたな。」 骨を撫でながら、俺の目元に親指を沿わせる。口を歪な三角に曲げ、にんまりと微笑んだ。 「お前は誰からも愛されない。お前は誰にも救われない。期待は灰に、勇気は塵に、周りから、舎弟から、身内から、部下から…そして 父親からも …そんなことお前が一番良く分かっている筈だ。」 (__ッ!) バシンッと強い音が響いた。鬼塚に振り払われ、赤くなった手を撫でた。ハッとした表情で金谷を見る鬼塚に、金谷は体が熱くなるのを感じていた。 「…ぁ、わり…。」 「…フウン。だが安心しろ、鬼塚。」 「…あ?」 「期待も、勇気も、責任も、尊敬も、お前のものは俺様のものだ。不要な感情は捨てていい。ただお前は俺の奴隷として、何も考えずにいて良いのだ。この俺様が許そう。」 「…ふざけんな…!」 鬼塚は今にも殴ろうと、震える拳を抑えつけ、生徒会室から飛び出した。乱雑に開かれた扉は歪み、周りに居た生徒会役員は一連の流れに、ただただ置いてけぼりを食らっていた。
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