鬼塚の呪縛

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大きな音を立てた扉を、双子が覗き込む。 「「あーあ、行っちゃった。あんなに甘くて良かったの?カイチョー。」」 二人の正反対の声が静まり返った室内に響く。金谷は涼しげな顔をして、応えた。 「あれくらいが丁度良い。…鬼塚は感情の起伏が激しく、自身では中々コントロールの出来ない男だ。釘は刺しておいたからな。俺様の仕事は終わった。」 双子は興味なさげに「「フーン」」と呟く。それを見た会長はキッと睨み付け、低い声で戒める。 「おい。伊織、沙織。余計な手出しはするなよ。…アレは俺様のものだ。」 伊織はニヨニヨと口端を緩ませ、沙織はニンマリと笑いながら「「はーい♪」」と元気よく返事をした。だが、クスクスと笑いながら小声で何か話している。 {鬼塚には…ね?} {そーそー。鬼塚"には"手を出さないよね?} (…こいつらも困ったものだ。少しはお灸を据えるべきか?) その様子を見ていた金谷は深く溜め息を吐いた。 _ __ ___ 下を向いたまま、追われる様にズンズンと足音を立てて歩く。鬼塚は腹の中に何かがぐるぐると、渦巻いている様な気がしてなかった。 (どうすれば…いや、ちがう…だから…そんな…うそ…あぁでも…。) 考えが纏まらない。思考が定まらない。一つがずっとぐるぐる回っているのだ。ぐるぐる、ぐるぐると。いつか回らなくなり、鬼塚は止まってしまうのだろうか。 鬼塚はあの時に決定的な何かが壊れてしまったのだ。其れが何かは鬼塚自身も分からない。ただの一言は鬼塚にとって、致命的な何か足り得たのだ。 (…………なにか、ないのか。) アイツ(金谷)に勝てるもの。力、力さえ使えればアイツに勝てた。金も、顔も、才能も、全てがアイツより劣っていた。 でも黒野は、強い力が怖いから。 だから使えない。 (…じゃあ。) 黒野が好きなものは? そこまで考えて思わずハッとした。 『………特に、ありません。』 (ない…!) じゃあ本はどうだ。黒野は趣味は読書だと言っていた。本を万冊買えばきっと俺を愛してくれる!いや、俺を必要としてくれるにはまだ足りない。もっとだ!もっと沢山積まないと! 黒野は何でも食べるから。余り行けない高級な料理店に連れ回してやろう!美味しいものを食べてる時の黒野は本当に可愛いからな。いつでも可愛いが。 大丈夫だ。 金なら沢山ある。 金だけなら本当にあるから。 だから だから 「行くよな?黒野。」 視線の先には怯えた表情をした黒野が立っていた。
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