鬼塚の呪縛

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ビルとビルの間を縫い、電子版の青白い光を浴びながら僕は信号を待っていた。丁度反対側には、CMの流れる電子版をぼうっ…と眺めている鬼塚の姿があった。信号が青に変わると人の波に押されながら、僕は白と黒の混じる川を渡った。向こう岸に居る彼は僕の存在に気がつくと、僕を視界に捉えながら、ゆっくり此方に向かって来た。 「よう。随分と遅かったな。」 (来たくなかった…なんて言えないしなぁ。) 「…すみません。」 「別に…怒ってる訳じゃねーよ。そんな怖がんな。寂しくなるじゃねーか。」 鬼塚は頭を掻くと、「んじゃ、行くか。」と先導し、車、人、電車の音に包まれた都会の渦に飛び込んだ。その広い背中を追うように、僕はアルファルトの歩道を歩いた。 _ __ ___ 黒塗りされた壁に、縦長の大きい窓。着いたのは、店内を覗ける5階建てのビルだった。 いつもはこの様な場所に来た時は、心が落ち着かずいつも慌てていた。 が、今日は違った。 腹の中に重苦しいものが溜まっている。お腹は空いている筈なのに、どうにも食欲が湧かなかった。中に入ると、ゆったりとした音楽が店で踊っていた。ヴァイオリンやフルートの音、時々ティンパニが鳴っている。 (クラシック、かな。) 昔母に聴かされた事がある。母はよく洗濯中や、食器洗いの際によく聴いて鼻歌を歌っていた。僕はもう覚えてしまって、今でも口ずさんでいる。赤いカーペットや、ステンドグラスがキラキラと彩られていた。小綺麗な見た目をした店員に案内され、僕等は窓際の席についた。縦長の窓から見える夜景はとても綺麗で、ついまじまじと見てしまう。 街を見下ろすと、都会の光が夜空の星の様にまばらに輝いている。あの喧騒が嘘のようだ。空を見上げると、雲に覆われどんよりとした空が広がっている。小さく欠けた月が雲の隙間から顔を出しており、僕等を見下ろしていた。 窓の外を眺めていると、料理が運ばれてきた。どれも美しい盛り付けや、様々な食材を使用しており(あぁ…高そう。)と僕は安直な感想を持った。いつもは心が熱くなり、周りが見えなくなるほど興奮するのだが、なんだか今日は随分と冷めた気持ちでいた。 食べた料理は砂の味がした。 「………はぁ。」 思わず溜息を吐くと、視界の端で鬼塚の肩がピクリと動いたのが見えた。 鬼塚は顔に影を落とし、焦っている様にも見える。目がきょろきょろと動き、時折此方の目を覗いてきていた。下唇を噛み、ぎゅっと目を瞑った。 「…なぁ黒野。」 「俺の事はどう見えている?」
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