鬼塚の呪縛

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「…どう、見えているかですか…?」 黒野は少し頭を傾けて、食事していた両手を下ろした。 バチッ (あ、まただ。) 黒野を見つめていると、瞬きする度に小さな静電気が光る。バチバチ輝く代わりに俺の目はどんどん熱くなり、何故か目を背けたくなってしまうんだ。 (あぁ、そうか。) 俺がからだ。目に黒野を詰めているから、こうなるんだ。黒野はいつも少しパチパチしていて、少し痛いから。だからこうなるんだ。 (でも、俺が目を逸らしたくなるのは、きっと黒野が見ないから。) ふつーの奴なら好きな相手くらい幾らでも見れる筈なのに。それが出来ない。 見つめるというのは、本来相手が此方を見ないから出来ること。それを何度もしているから、目が痛くなる。 (そうだよな。本来なら見詰め合う筈だもんな。) そうやって互いに互いを傷つけ合って、初めて見つめ合えるのだから。 「…これは自分の観点からですが」 あ、あ。 (目が痛い。) 飯の味が感じなくなった。周囲の人間が消えた。外の喧騒も無くなり、黒野の声と自分の心音しか聞こえない。 (まて。) 「鬼塚は」 (まて‼︎) 思わず自分の耳を塞ぎたくなった。 「きっと」 (聞きたくない!!!!) 「…弱い人ですよね。」 「…へ。」 予想外の回答に俺は顔を上げた。顔から滝の様に汗を流している俺と違って、黒野は至って涼しい顔をしていた。 「貴方って見た目のように、強くて、頑丈で、凶暴な人と思われがちなんでしょう。」 「周囲から恐れられ、恨まれ、便利な人だと、そう思われたのでしょう。」 「でも、それは違う。」 「貴方は"ガワ"がそうなだけで、実際はその逆。」 「貴方は優しくて、献身的で、根気強い人。見えない努力をしていて、自分に厳しい人。」 「ほらその、何でしたっけ?縁の下の力持ち?そんな人なんです。」 「…僕は貴方の努力を知ってるから、それでいいじゃないですか。」 黒野はふんわり笑った。 そこで、黒野が俺を見つめている事に気づいた。黒野の瞳に俺が映り、俺の瞳に黒野が映っていた。 (…あ) バチンッ!! その時、激しい電流が俺の目玉を貫いた。今までになかった程の痛みが俺の目に突き刺さった。辺がチカチカ輝いて、俺はあまりの痛みに両手で目を押さえる。目からぬるりとした液体が流れ、俺の頬を伝う。 (痛い。痛い。痛くて痛くて堪らない!) その筈なのに、不思議と口角は上がっていた。 「鬼塚…⁉︎」 ぼやけた視界の中で黒野が心配そうな顔をしているのが見えた。手の甲で何度も拭うが、流れる液体は止まってくれない。あまりの痛みに血でも流れているのだろうか?ズボンが濡れている事だけは分かった。 「…泣いているんですか…?」 そこで初めて気付いた。 己が泣いている事に。 「ハハハッ…!…ぅぐぅ…ぐずっ…ひぐ…!はぁ…はぁ…あはは…。」 誰も見てくれなかった。 俺ばっかりが見ていた。 誰も俺を信じなかった。 …俺だけが信じてた。 ………そっかぁ。俺、弱かったんだ。 「くろのぉ…。」 「何ですか?」 「…すきぃ!」 「今言う台詞(セリフ)じゃないと思いますが…。」 嗚呼。俺の目に狂いはなかった。俺の初恋。愛しい人よ。あの日、月明かりの下で、真っ直ぐ俺を見てくれた時から、俺はお前の虜だよ。
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