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鬼塚が突然泣き出した。
(え⁉︎)
真逆泣くとは思わなかった。いや確かに結構酷い事を言った気もするが、泣く程悲しいとは想定外だった。僕は懐からハンカチを取り出して「ほら、これ使って下さい。」と鬼塚に渡す。鬼塚はそれを小さく畳み、目尻に押し当てた。
「オ"ォ"ウ"、ザン"ギュ"ーな"ぁぁぁ!」
穴という穴から垂れ流している鬼塚と、ベチョベチョになるハンカチを見て何とも言えない気持ちになる。
(帰ったら念入りに洗おう…。)
鬼塚はすっきりした顔立ちになると、フーッと息を吐いた。
「なぁ、俺に構わず食えよ。溶け始めてるし、それ。」
鬼塚が指差したそれを見てみると、確かにバニラのアイスは既に解け始めていた。スプーンをクスリと刺すとアイスはくしゃりと崩れてしまった。皿の上で水面下に広がるアイスは雪の様に白く、まっさらな皿に溶けていった。
(__。)
白いかまくらの中には暗い紅色をしたラズベリーが入っていた。
「美味そうだろ、それ。」
鬼塚は3回瞬きをした。
「ラズベリー。きっとお前に合うと思って。」
鬼塚は5回瞬きをした。
「花屋で何度も悩んだけどな。」
鬼塚は8回瞬きをした。
「食べてくれるか?」
ぱち、ぱち、ぱち、鬼塚は何度も瞬きを繰り返す。頬がぽぉっと桃色に染まっていた。潤んだ目を向けて、顔を覗き込んできた。僕の皿には赤々としてテラテラと艶めくラズベリーがあった。
僕はそれを
べちゃ と潰した。
「僕、ラズベリーは嫌いなんです。」
鬼塚の頬にびちゃっとかかる。
鬼塚は口元に付いたラズベリーを舌で舐め取り、ゆるりと笑うと
「そうか。」
と呟いた。
頬を赤く染めながら、満足気に微笑む鬼塚を見て、僕は何だか胸の辺りがムズムズした。
鬼塚は僕の潰したラズベリーをフォークで突き刺し、どろりとしたそれを僕の唇に押し当てた。うっすら口を開け、舌で掬い、前歯でフォークを噛み、そのまま引き抜いた。ぐち、ぐちゃ、ねと、べろ、ごくん。甘ったるいそれに、少し、吐きそうになった。甘い泥水を啜っている気分だった。
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