鬼塚の呪縛

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あの後の事は思い出したくない。 鬼塚に店内で土下座されそうになったり、病院に連れられ包帯でぐるぐる巻きにされたりした。腕の部分は赤く腫れているから、冷やしておけと医者に言われた。 そうして今、駅に来ている訳だが…。 「……ッ⁉︎」 「…終電、無くなっちまったなぁ。」 (無くなっちまったなぁ…じゃねーだろ‼︎元はと言えばお前の所為で腕をやったし、病院に行く羽目になったんだろ‼︎) 「…ッハァ〜〜。」 叫びたくなる衝動をグッと抑え、大きな溜息を吐いた。 「どうしてくれるんですか?コレ。」 僕が親の仇を見る様に睨み付けると、鬼塚はバツが悪そうに頬を掻いた。…若干頬を染めるんじゃない! 「あー…じゃあ」 鬼塚は暗くなった周囲を見渡し、ふんわりと繊細な手つきで、僕の指からするりと握った。街灯の灯りがぼんやりと光る夜は、少し肌寒くて鬼塚の体温は僕の指先からじんわりと伝わり、氷が溶けるようだった。 (…まぁ、今は寒いし。別にこのままでも__ 「とりあえず、ホテル行かね?」 前言撤回。僕は鬼塚の手をバチンと弾いた。 しかしこのまま付近を彷徨いても、何も解決しない。かといってお金も余り持って来ていないし…。 (…行くしかないか。) ロビーでチェックインを済ませ、中に入る。 これが人生初のお泊まり会になるとは数時間前の僕は知らなかっただろう。 二つのキングサイズのベッドに、シャワールーム。簡素な作りになっている。僕の部屋くらいに物が少ない。初めて来たホテルがこんな状況でいいのかとは思うけれど。ベッドはふかふかだし、何より広い。自分の部屋じゃないからか、何だかはしゃぎたくなってしまう。具体的にはベッドで飛び跳ねたい。 だがここで弱みを見せたくない。鬼塚の事だから、ホテルなんていくらでも泊まれるのだろうし。 ベッドでゴロゴロしていると、鬼塚が話しかけて来た。 「シャワー先に浴びてこいよ。俺待ってるからさ。」 「はぁ…じゃあお言葉に甘えて。」 鬼塚に言われ、僕はシャワールームの中に入った。出てくるお湯は丁度いい温度で、冷めた体を温める。 (そういえば、着替えどうしよう。)
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