これから始まる非王道の日常

1/16
264人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ

これから始まる非王道の日常

この世界は異常である。そう気付いたのは、入学して数ヶ月経った頃。男なら女と付き合うのが普通だろう。でも、この世界は違う。この『私立王生高等学校』と呼ばれる小さな世界では。性欲真っ盛りの男子高校生がこの小さな箱庭にぎゅうぎゅう詰めになっているのだ。過ちを犯す輩も多少は居るだろう。 しかし、しかしだ! "ソレ"が当たり前になるのはおかしな話では無いか? 男同士の恋愛なんて少数派だろう。しかも学校全体と言うのだ。規模がおかしいだろ? …何はともあれ、普通の一般人である僕に現状を変える力は無い。だから僕はこの王道と呼ばれるこの現象の中で普通で居ようと、モブで在ろうとした。 (いや、正確には「した」では無く「している」のだが。) 『波風立たぬ人生を』それが僕のモットーだ。 男なら普通に女の子と付き合いたい。男なんざごめんだ。 しかしここは王道学園。生徒会などが来たらきゃーきゃー言わなければいけないし、もし性行為を迫られたとしてら、きゃー嬉しい〜みたいな態度を取るしかない。そんな態度を取らなければふーん面白い女(男)になってしまう。 正直言うと吐き気がする…が、自分がそんな目に合った事は今まで無い。そしてこれからも無いだろう。 僕は購買戦争での戦利品を齧る。ふかふかの柔らかな生地に、焼きそばが入った焼きそばパン。学食もあるが高くて買えない。普段はお弁当だが、おばちゃんに媚びを売りパン一つだけ買えたのだ。基本購買を利用しているのは今月がきつい奴しか居ない。だから、購買前ではいつも戦争が勃発している。 パンをもしゃもしゃ食べていると、ふと辺りが暗くなった。 「あー焼きそばパン美味しそー!いいなぁ黒ちゃん。」 顔を上げると見知った顔があった。 「…何?健斗。」 鴉木健斗(からすぎ けんと)。数少ない僕の友達だ。金髪のポンパドールと鼻に絆創膏右耳ピアスの彼はこのスタイルをオシャレだと言っているが、美学が無い僕にはそれがお洒落か分からなかった。 「黒ちゃ〜ん。聞いてよ〜。今日もせんせぇがちょーかっこいいの!」 「…またその話?そろそろ耳に蛸が出来るから止めて欲しいんだけど。」 彼は最近、この学校の教師に恋をしているらしい。詳しくは知らないが彼が言うに本気出したら全人類孕ませる事が出来るくらいの美形だそうだ。…うちにそんな教師居たか? まぁ彼は惚れやすい男だし、今回もフィルターがかかっているのだろう。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!