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15.親友の頼み
夢の中まで罪悪感に苛まれるなんてな。
花の都の雑踏の中で、タウォード・スベルディスは小さく呟いた。
日々彼を蝕む葛藤から逃れるために目を閉じたのだから、目を開けたその場所が花の都フィレンツェであっても、何ら驚きは抱かなかった。
右を見る。親友が少女に絡まれて戸惑っている。今ではもう懐かしい、白い横顔。それと瓜二つの顔を持つ女を腕に抱いたが、彼には二人が赤の他人程に異なって見えていた。
自分は彼を助けに行かなければならない。鉛のように重たい足を踏み出して。手にしたパニーニを彼に届けるのだ。
「セメイル」
肩を叩く。親友は名前を呼ばれたことでギクリと身を縮め、それがよく知った相手だと気付くと安堵の溜息を吐いた。緊張の表情が信頼の笑顔へと変わっていく。
その笑みはあまりに清らかだ。裏切者に向けるような笑みじゃない。
「探したんだぞ。勝手にうろつくんじゃない」
細い腕を掴み、建物の陰へ連れて行く。痩せた胸に買ってきた包みを押し付けた。
「信徒にばれたらどうするんだ。結構心配したんだからな」
台本を読み上げるように、タウォードは言う。
おかしいな。そう言った当時は心からの言葉だったのに。
今となっては苦痛でしかない。擦れた声が不自然に震えた。
「すみません。つい見とれてしまったもので」
申し訳なさそうに目を伏せる。包み紙を捲り、手渡された昼食を確認したセメイルは、嬉しそうに頬を染めた。
「お野菜たっぷりですね」
「サラミが入ってる」
「えっ。私、お肉はあまり……」
「食べられないわけじゃないだろ。店の人がご厚意でサービスしてくれたんだぞ。それを断る方が主の御前で恥だ」
タウォードは自分の分に齧り付き、肉の塩分と穀物の甘み、チーズの鼻に抜ける香りを愉しんだ、はずだった。
パンは灰の味がした。
「大聖堂、見学できないでしょうか……」
セメイルは上品にパニーニを一口齧り、咀嚼しながら鐘楼を見上げた。
「神官ルックなら顔パスで入れただろうけどなぁ。御忍びで来てるんだから、あの行列に並ぶことになるぞ」
「いいんです。観光客の目線から見てみたいので」
ぐにゃりと歪み、場面が変わる。
二人は大聖堂の中に立っていた。高い吹き抜け。ファサードの煌びやかな装いに反し、内部は随分と簡素に思えた。
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