13.セメイルの地図

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「え。でも、主任が持ってた方がいいんじゃないですか? ほら。最後に僕が無事とは限らないし」  僕はあんたを守るために行くんだから、生き残る確率はそっちの方が高いでしょう。  エアロンはいつもの調子でそう付け加えた。ところが、椿姫(つばき)は顔を曇らせ、駄々っ子のように首を振る。その姿があまりに普段の隙の無い上司とかけ離れていたために、彼は慌てて取り繕う術を探した。 「だって僕、ナイトだし? お姫様のためなら命投げ出す覚悟だし?」  甘く見積もっても半分以上は嘘である。  茶化したつもりが伝わらなかったようで、椿姫は更に沈痛な面持ちで地面を見つめた。 「守ってくれる騎士様が死んだら、残された姫も死ぬんだよ。受け取ったあんたが持っとくべきだ」 「えぇー……なんでそんなにネガティブなんです? そりゃあ危険な仕事だっていうのはわかりますけど、僕はこんな所で死ぬつもりないし。あんただってそうでしょ? 簡単なことです、二人とも生き残ればいい」 「それじゃ、どうせ二人とも生き残るんだから、あんたが持ってな。無くすんじゃないよ」  椿姫はそう言って腕に頬を預けた。  なんだか空気が悪くなってしまった。エアロンは紙切れをベストの内ポケットにしまい、立てた両膝を抱き寄せた。  何かがどこかで鳴くのを聞いた。炎が咳き込むように火の粉を吐く。橙の粒が天に向かってするりと消えた。  気配を感じてエアロンが顔を上げる。椿姫はいつの間にか眠りに落ちたようだが、エアロンが焚火に砂を掛けて消す音で目を覚ました。  グウィードが戻ってくる。護身用のナイフが月夜に輝いていた。 「何?」  エアロンが囁く。荷物からハンドガンを抜き出した。 「人だ。町の方から、五人くらいかな」 「なんだろう、ミングカーチ市民?」 「いや、西洋人だ。フランス語と……時々英語が混じってる」  グウィードは二人を守るように暗闇の前に立った。エアロンが主任を立ち上がらせ、背後に庇う。
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