13.セメイルの地図

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 足音は段々と近付いてきた。こちらの場所は特定できていないらしいが、それでも彼らを探しているのは間違いなかった。どうしようかとグウィードが振り返る。エアロンは待てと合図を出した。  懐中電灯が闇を切り裂く。光線が彼の姿を捉えた途端、捜索者たちは一斉に銃を構えた。 「何者だ!」  少し訛りのある英語。エアロンは銃口を向けて答えた。 「通りすがりの西洋人だ。こちらに敵意は無い。銃を下ろして、身分を明かしてもらおうか」  先頭の男は鼻で笑った。 「銃を下ろすのはお前たちだ。こっちは五人いる」 「ふぅん? そうやって余裕こいてる間に四人になっちゃうかもしれないね」  男は息を呑んだ。  全く気が付かなかった。すぐ隣に男が立っている。闇の中から遊離するように、彼の首にナイフを突き付けて。  エアロンはにっこり笑って銃を下ろした。 「いつのまに……!」 「グウィード、そのままで。さあ、自己紹介をどうぞ」 「わ、我々は神官十字軍の民兵だ。ミングカーチを出てアバヤ帝国の西ゲートへ向かっている。そっちにその気が無いのなら、こちらも危害を加えるつもりはない――から、そのナイフを退けてくれ」  エアロンが頷く。グウィードもナイフを収め、身を引いて相棒に並んだ。  民兵の代表者は銃を手にしたまま、怪訝そうに闇夜に目を凝らした。 「こちらは身分を明かしたぞ。お前たちはなんなんだ?」 「あんたたちと一緒さ。帝国に向かっいる」 「十字軍か?」 「組織立ててはいないけど、個人で戦う意志はある」 「証拠を見せろ」  ヴァチカン教徒である証拠を。  予想され得た要求だが、エアロンは返答を詰まらせた。当然そんなもの持っていない。  相手の眼差しが猜疑に変わり始めた頃、助け舟を出したのは椿姫(つばき)主任だった。 「ここに」  差し出した指からロザリオが垂れる。代表の男の顔付きが緩んだ。 「あんた、もしかして日本人か?」 「終戦後に移住してきた」 「洗礼名は?」 「アグネス」  男は銃を下ろした。
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