14.野営地

2/3
前へ
/492ページ
次へ
 四人は野営地を歩いた。  ざっと見ただけでも三、四十人はいるだろうか。皆が値踏みするような目で彼らを見る。その多くが屈強の男たちだが、中には田舎から出てきた神父や今時珍しい隠修士、女子供も混じっている。  熱心な信徒は焚火を囲んで聖書を読み、またある者は星に祈りを捧げていた。目に付くのは身形の貧しさ。軍隊と呼ぶにはあまりに異様な光景だった。 「ここ使え」  エルマンはテント群から一つを選び、入口を捲って中を見せた。布と棒と紐だけでできた最小限のA型テント。簡易設計の割にはきちんと居住スペースが確保され、強度も信頼が置けそうだ。 「毛布は不足してるんだ。悪いが自分たちでなんとかしてくれ。机や椅子が必要なら俺に言えよ。作るから」 「作る?」  グウィードがぽかんと口を開ける。エルマンは胸を張って答えた。 「俺は大工だ」 「へぇ。それは頼もしいな」 「任せろ。ところで、今後のことなんだが」  エルマンは椿姫(つばき)を見下ろした。 「実は、明日から二手に別れて行動する予定でな。先に帝国へ向かう班と、ここに残ってミングカーチからの同志を集める班だ。俺は前進班を、居残り組はラファエルが指揮を執る。あんたたちはどうしたい?」  椿姫は悩む素振りを見せる。全身をすっぽりマントで覆っているせいもあるのだが、男三人に囲まれた彼女は一層小さく見えた。 「そうだね……先を急ぐんだ。あたしたちはあんたと行くよ」 「旦那はどうする? 名前とか外見を教えてくれれば、俺たちも捜索に協力できるんだが」 「いや、居場所はもうわかってるんだ。色々とありがとう、エルマン。世話になるよ」  感謝の気持ちを込めて、大工の逞しい二の腕を叩く。エルマンは目尻に皺を寄せて笑った。 「あんた、強い女なんだな」 「愛する人のためなら、女は強くなれるんだよ」  エルマンは一度だけ名残惜しそうに彼女のことを振り返り、自分のテントへと帰って行った。  エアロンがいそいそとテントに入る。二人も後へ続いた。 「うおっ。布一枚あるだけで暖かい」  グウィードが歓喜の声を上げる。早速寝床を確保したエアロンがちらりと入口を見遣った。 「見張りはいらないかな?」 「これだけ沢山人がいるんだから大丈夫だろう。一応武器は所持したままで」 「俺が入口側に寝るよ」  布製の壁は外からの音を完全に遮断してはくれない。横たわれば地面の凹凸が必要以上に意識され、地を這う虫の足音すら聞こえてきそうに感じられた。
/492ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加