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四人は野営地を歩いた。
ざっと見ただけでも三、四十人はいるだろうか。皆が値踏みするような目で彼らを見る。その多くが屈強の男たちだが、中には田舎から出てきた神父や今時珍しい隠修士、女子供も混じっている。
熱心な信徒は焚火を囲んで聖書を読み、またある者は星に祈りを捧げていた。目に付くのは身形の貧しさ。軍隊と呼ぶにはあまりに異様な光景だった。
「ここ使え」
エルマンはテント群から一つを選び、入口を捲って中を見せた。布と棒と紐だけでできた最小限のA型テント。簡易設計の割にはきちんと居住スペースが確保され、強度も信頼が置けそうだ。
「毛布は不足してるんだ。悪いが自分たちでなんとかしてくれ。机や椅子が必要なら俺に言えよ。作るから」
「作る?」
グウィードがぽかんと口を開ける。エルマンは胸を張って答えた。
「俺は大工だ」
「へぇ。それは頼もしいな」
「任せろ。ところで、今後のことなんだが」
エルマンは椿姫を見下ろした。
「実は、明日から二手に別れて行動する予定でな。先に帝国へ向かう班と、ここに残ってミングカーチからの同志を集める班だ。俺は前進班を、居残り組はラファエルが指揮を執る。あんたたちはどうしたい?」
椿姫は悩む素振りを見せる。全身をすっぽりマントで覆っているせいもあるのだが、男三人に囲まれた彼女は一層小さく見えた。
「そうだね……先を急ぐんだ。あたしたちはあんたと行くよ」
「旦那はどうする? 名前とか外見を教えてくれれば、俺たちも捜索に協力できるんだが」
「いや、居場所はもうわかってるんだ。色々とありがとう、エルマン。世話になるよ」
感謝の気持ちを込めて、大工の逞しい二の腕を叩く。エルマンは目尻に皺を寄せて笑った。
「あんた、強い女なんだな」
「愛する人のためなら、女は強くなれるんだよ」
エルマンは一度だけ名残惜しそうに彼女のことを振り返り、自分のテントへと帰って行った。
エアロンがいそいそとテントに入る。二人も後へ続いた。
「うおっ。布一枚あるだけで暖かい」
グウィードが歓喜の声を上げる。早速寝床を確保したエアロンがちらりと入口を見遣った。
「見張りはいらないかな?」
「これだけ沢山人がいるんだから大丈夫だろう。一応武器は所持したままで」
「俺が入口側に寝るよ」
布製の壁は外からの音を完全に遮断してはくれない。横たわれば地面の凹凸が必要以上に意識され、地を這う虫の足音すら聞こえてきそうに感じられた。
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