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異国の地で全く知らない共同体に紛れ込み、保護を受けながら眠りに落ちるのはなんとも奇妙な感覚だった。時折聞こえる低い祈りは安心して眠れと囁きかけるのに、それがかえって疎外感を掻き立てる。眠れそうもない、とエアロンは思った。
「そういえば、主任。あんたいつヴァチカン教徒になったんですか?」
腕に顎を乗せてエアロンが尋ねる。片目で見上げた女の顔は影になってよく見えない。
「なってないよ」
「え」
「ロザリオは神官様からの貰い物」
「洗礼名は?」
「旧友から拝借した」
エアロンが狐に摘ままれたような顔で口を窄める。
「ヴァチカン信者と遭遇することになるだろうと思って、予め用意しておいただけさ。あんたたちもあたしの部下なんだから、それぐらいの用意はしておいてほしかったね」
主任はフンと鼻を鳴らし、嘲るように部下二人を見た。男たちが目を逸らす。
「だって、ねぇ? 裏側を知っちゃうと嘘でも信じてますなんて、言いたくないっていうか……」
「神官様が泣くよ」
「僕は正直者だから嘘とか吐けないし……」
「いいから寝な、この大法螺吹き」
椿姫が髪を掻き上げる。ふわりと香水が香るのが、土臭いテントの中で妙に後を引いて鼻腔に残った。例え野宿の時だって、彼女は女としての隙を見せない。
「進行速度が少し遅れると仮定しても、明後日の明け方にここを抜け出せば、きっと西門の最終開錠に滑り込める。今日明日はここの人たちに甘えさせてもらって、できるだけ体力を温存しておくんだ」
「一緒にいていいのか? 俺たちはここの奴らにとって敵になるんじゃないか?」
指名手配犯が不安げに眉を寄せる。椿姫は安心させるように一瞬微笑み、それから唇をキュッと引き結んで言った。
「あたしたちは神官様を手伝って、この意味の無い戦争を止めに行くんだよ。つまり、彼らを守りに行くんだ。気を強く持ちな、グウィード。あんたは無実を証明するために行くんだろ」
暗闇の中で、グウィードが小さく頷くのが見えた。
どうして自分はここにいるんだろう、と長い道中何度も思う。そしてその度に彼らは、それがなぜだったのか知るために。そして、それを証明するために行かなければならないのだと、漠然とした決意を確認するのだった。
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