14.野営地

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 異国の地で全く知らない共同体に紛れ込み、保護を受けながら眠りに落ちるのはなんとも奇妙な感覚だった。時折聞こえる低い祈りは安心して眠れと囁きかけるのに、それがかえって疎外感を掻き立てる。眠れそうもない、とエアロンは思った。 「そういえば、主任。あんたいつヴァチカン教徒になったんですか?」  腕に顎を乗せてエアロンが尋ねる。片目で見上げた女の顔は影になってよく見えない。 「なってないよ」 「え」 「ロザリオは神官様からの貰い物」 「洗礼名は?」 「旧友から拝借した」  エアロンが狐に摘ままれたような顔で口を窄める。 「ヴァチカン信者と遭遇することになるだろうと思って、予め用意しておいただけさ。あんたたちもあたしの部下なんだから、それぐらいの用意はしておいてほしかったね」  主任はフンと鼻を鳴らし、嘲るように部下二人を見た。男たちが目を逸らす。 「だって、ねぇ? 裏側を知っちゃうと嘘でも信じてますなんて、言いたくないっていうか……」 「神官様が泣くよ」 「僕は正直者だから嘘とか吐けないし……」 「いいから寝な、この大法螺吹き」  椿姫(つばき)が髪を掻き上げる。ふわりと香水が香るのが、土臭いテントの中で妙に後を引いて鼻腔に残った。例え野宿の時だって、彼女は女としての隙を見せない。 「進行速度が少し遅れると仮定しても、明後日の明け方にここを抜け出せば、きっと西門の最終開錠に滑り込める。今日明日はここの人たちに甘えさせてもらって、できるだけ体力を温存しておくんだ」 「一緒にいていいのか? 俺たちはここの奴らにとって敵になるんじゃないか?」  指名手配犯が不安げに眉を寄せる。椿姫は安心させるように一瞬微笑み、それから唇をキュッと引き結んで言った。 「あたしたちは神官様を手伝って、この意味の無い戦争を止めに行くんだよ。つまり、彼らを守りに行くんだ。気を強く持ちな、グウィード。あんたは無実を証明するために行くんだろ」  暗闇の中で、グウィードが小さく頷くのが見えた。  どうして自分はここにいるんだろう、と長い道中何度も思う。そしてその度に彼らは、それがなぜだったのか知るために。そして、それを証明するために行かなければならないのだと、漠然とした決意を確認するのだった。
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