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「コンサートも無事に終わったし、またあそこ行くか」
オフの伊織は、道を歩きながら呟く。しばらくして、たどり着いたのは、古本屋だった。伊織は小さいころから両親に連れられて来ていた。その影響なのか、伊織は読書が大好きだった。
「…古本屋・願い道。コンサート前以来だから、来るの結構久しぶりだな」
伊織は、そっと扉を開く。中はとても静かだった。そんな雰囲気が落ち着いて伊織は好きなのだ。
「こんにちはー」
伊織は、いつものように奥のほうに声をかける。常連だから、お店のほうも伊織がアイドルだということを知っていて、それでも受け入れてくれている。
「いらっしゃいませ……」
レジカウンターから聞きなれない女性の声が聞こえてきた。それに驚いた伊織がレジカウンターのほうを見ると、そこには伊織と同じように驚いている若い女性が立っていた。
『あれ、いつもはおじいさんじゃなかったか!?』
驚きながら伊織は、頭の中で考える。
「い、いおりん…?」
「お、声が聞こえると思ったら、伊織くんじゃないか。久しぶりだね」
呆然とする女性のうしろのドアが開き、いつものおじいさんが出てきた。
「あ、お久しぶりです。…この方は…?」
安心した伊織は、笑顔を彼に見せた。それを見た女性はとても衝撃を受けて、顔を真っ赤にしていた。
「そうか、初めて会うんだったかな?この子は、わたしの孫の熊谷吹だよ」
「よ、よろしくお願いします!祖父のかわりに店番してます」
おじいさんの紹介に、吹と呼ばれた女性は慌ててお辞儀をする。
「知ってると思いますが、おれは柳沼伊織です。こちらこそ、よろしくお願いします」
吹のお辞儀に伊織も慌てて自己紹介をする。
「自己紹介も済んだし、ゆっくりしていきなさい」
おじいさんは言い残して、また奥の部屋へと行ってしまった。
「……なにかあったり、会計のときには、声かけてください。わたしはここで、別な仕事してるので…」
そのあと、しばらく呆然としていた二人だったが、吹は気まずそうに笑いながらレジカウンターの椅子に座った。伊織も「ありがとうございます」と言ってから本を眺めることにした。
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