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「わぁ、またファンレター届いたんだ!」
柳沼伊織がある手紙を読んでいると、うしろからメンバーの落合想真の元気な声が聞こえた。
「あぁ、お前にも届いてるみたいだぞ」
伊織は読んでいた手紙から目線を外し、想真のほうを見ながらテーブルの上の積み重なった手紙を指さした。
「やったぁ!最近、ピアノの話題が多いんだ」
「よかったな」
飛びつく勢いでテーブルに駆け寄る想真が笑っていることに気づき、伊織も微笑んだ。
「お母さん元気になって、少しずつ仕事に復帰し始めた。だからかな、手紙にもぼくとお母さんの連弾を見てみたいっていう子もたくさんいるんだ」
「そうか。たしか今度、映画の音楽を担当するらしいよな」
「うん。お母さん、すごく楽しそうだよ」
想真はさっきとは違う安心したような笑顔で伊織を見る。想真の母親である梨子は有名な音楽家だったが、統合失調症で活動を休止していたのだ。しかし、想真の歌とピアノのおかげで、また活動を始めることができていた。
「ほんと、よかったな」
「いおりんが話を聞いてくれたおかげだよ。ありがとう」
思い返して安心していた伊織に、想真は親指を立てて握った手を突き出した。
「…どういたしまして」
驚いた伊織だったが、想真が突き出す手に拳を当てた。
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