第1章 MADA

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第1章 MADA

日常の崩壊 スラム街の街並みに空に浮かぶ家。 現実ではありえない世界だ。 僕はその地に立っていて、鼻につく煙の匂い。 そして、僕を見下ろすフードを被った少女が、僕に向かってこう呟いた。 「時間がない。早く探せ。彼の欠片をー」 ピピピーッ!! 目覚ましのアラームが、部屋に鳴り響き渡る。 「また…、この夢か…。一体なんなんだ…。」 体には嫌な汗が流れていて、体がベタついていた。 高校に入学して1週間が経ってから、毎日この夢 を見ている。 何か、僕に伝えたいのだろうか。 彼の欠片って、誰の事だ? 僕と関係のある人物なのだろうか。 だけど、何かが引っ掛かるような…。 だだの夢だと、無視できない僕がいた。 胸騒ぎとは違う、誰かが僕を呼んでいるような。 ドタドダドタドタ!! 廊下から大きな足音が部屋に近付いて来た。 バンッ!! 勢いよく扉が開かれ、赤いエプロン姿の母さんが顔を出した。 「晃(アキラ)!!いつまで寝てるの?早く起きないと学校に間に合わないわよ?」 母さんの声でハッとした。 スマホを見ると、8時を過ぎていた。 「やっべ!急いで用意しないと間に合わねぇ!」 ベットから降り、僕は急いで学校の準備をした。 急いで部屋着を脱ぎ、猛特急で制服を着て、ネクタイを結ぶ。 僕の名前は柳瀬晃(ヤナセアキラ)。 高校1年生で、小学校から続けているサッカー部に入って、ご 普通の生活を送っている。 制服に着替えて、そそくさに部屋を出た。 パタパタ!! ガチャッ。 扉を開けると、朝食の良い匂いが花を通った。 父さんは先に出たのか…。 母さんが目玉焼きを焼いている香ばしい匂い、トーストのバターが溶けていてる。 小さいお皿に盛られた色鮮やかな野菜が、テーブルの上に置いてあった。 「おはよう。母さん!そして、いただきます!」 パンッ!! 僕は母さんに挨拶をし、手を合わせた。 フォークでミニトマトを刺し、口の中に放り込んだ。 「おはよう、晃。はい、お弁当横に置いとくわね」 焼けた目玉焼きの隣にお弁当を置いた。 「ありがと!」 僕は急いでトーストを口に運んだ。 ピーンポーン、ピーンポーン。 チャイムの音が玄関の方からした。 ガチャッ。 母さんが出る前に玄関の扉が開く。 普通なら、こんな事をする奴は非常識だと思うだろう。 朝からうるさくインターホンを鳴らす人物を、僕は知っている。 「晃!また寝坊しただろ!迎えに来てやったぞ!!」 耳に響く声と、廊下をうるさく歩く足音が聞こえた。 「あら、星(ショウ)君。晃を迎えに来てくれたのね。ありがとうね。」 「おはよう、おばさん!俺もトースト食べたいな。」 人懐っこい笑顔で、母親にトーストを頼んだ。 母さんは笑顔で「はいはい。」と言ってトーストを焼き出した。 瀬名星(セナショウ)。 幼稚園からの幼なじみで同じサッカー部に所属している。 家もマンションの隣同士で、よく勝手に家に上がってくる。 色素の薄い茶色の髪に、茶色の瞳で、見た目はかなり幼く見える。 身長も俺より少し小さく、よく中学生に間違われている。 明るい性格の為、星の周りはよく人が集まっている。 「星、お前さー、朝飯食べてきたんじゃないのか?」 「食べてきたよ?いやー、お前の食べてる姿見てたらさ、食べたくなっちゃったんだよな。」 そう言って、僕の朝ご飯をパクパクっと口に運んだ。 「星って、意外とよく食べるよね。」 「意外とはなんだ!!」 星は口の中をモゴモゴさせながら、僕の背中を叩いた。 毎日、星とこうして朝ご飯を食べて学校に行く。 クラスは別だったが、昼休みも部活も帰ってからも ほぼ、毎日一緒にいた。 一緒にいたからこそ、星のよう異変にも気付いてあ げれなかった。 「お疲れー、晃。」 「あ、星。お疲れ。」 星より先に部室に戻っていた僕は、制服に着替え始めていた。 ん?顔色が悪いな…。 何か、元気ないような…。 「今日も晃の部屋に行っても良いか?」 「良いかって、毎日のようにいるじゃん。別に良いけど、風呂入ってから来いよ。」 「うわっ、俺は汚くねーぞ!!」 「汗かいたら誰でも汚いだろ!!風呂は入って来いよ。」 「へーい、へい。」 星は適当な返事をしながら、ジャージを脱いだ。 「なぁ、晃」 風呂を入り終えた星は、僕の部屋に来ていた。 ベットの上で寝転んでゲームをしていた星が、話し掛けてきた。 「何?」 「お前さ、俺が…いや。ずっと俺の味方で居てくれるか?」 突然、真剣な顔をして僕を見てそう言った。 いつもふざけている星が、こんな真面目な話をしてくるのは初めてだった。 何かあったのかな…。 「何言ってんだよ。僕は、いつも星の味方じゃないか。それは小学校の頃からそうだったろ?小学5年の頃のさ、お前がクラスの子を虐めてるって嘘の噂流された時も、僕は星がそんな事しない奴だって、信じてたからさ?お前の側離れなかったし。」 「あぁー。お前しか味方になってくれなくてな。あの時は嬉しかったな。」 星は少し悲しそうな目をしていた。 「星、なんかあった?」 「何もないよ。何で?」 「え?なんとなくだよ。星はさ、すぐ1人で考え込むからさ。なんかあったら言えよ?」 すると、星は静かに笑って「ありがとな。」っと小さく呟いた。 それが星と交わした最後の言葉だった。 AM.1:05 ドタドダドタドタ!! 廊下から乱暴な足音が聞こえて来た。 「ん…?何だ?」 枕の横に置いてあるスマホを取り、時間を確認した。 夜中の1時過ぎ…?   ガチャッ。 部屋に入って来た母さんが、慌てて僕を起こした。 尋常じゃない慌て様で、隣の父さんも顔を真っ青にしていた。 「な、何?2人ともどうしたの?」 母さんは泣き出して言葉が出せないでいた。 「うっ、ぅぅぅぅ…。」 こんなに泣いている母さんを、僕は見た事がなかった。 重い空気感に押し潰されそうだ…。 それを見た父さんが、代わりに口を開いた。 「晃。星君が死んだ。」 「は?」 「星君、自分の部屋で首を吊って亡くなったんだ。」 「ちょ…っと、悪い冗談や…。」 僕の言葉を遮った父さんは、母さんの背中を摩った。 「病院行くぞ。服着替えなさい。車回してくるから。」 「ちょっと父さん…!待っ」 「最後に会ってあげなさい。晃。」 そう言って、父さんは母さんの肩を抱いて部屋を出て行った。 意味が分からない。 星が死んだ? さっきまでゲームをして、馬鹿な話をして。 また、明日なって言って。 何で…。 何で? 何で、星が死んだ…? 突然の事で頭が回らなかった。 有り得ないと思っていたのだから。 自殺するなんて、そんな事あわるわけが無いと思っていた。 頭がボーッとしながらも部屋着から着替えた。 下のロビーまで降り、父親の車に乗り込み病院へと向かった。 足が宙に浮いている感じだ。 どうやって、歩いているのか分からない。 病院に着くと、すぐに霊安室に通された。 そこには星の母親が泣き崩れていた。 星の父親も顔を青白くして静かに星を見つめていて、妹のほなみちゃんも泣き崩れていた。 異質な空間で僕だけが時間が止まっていた。 重い空気が体にへばりついて息がし辛いのを感じた。 母さんが俺の肩に触れた。 「あ、きら…。星くんの顔見てあげて…。」 そう言って、俺を星の寝ている所まで連れて行った。 見たくない、見たくない。 見たくないのに、目が星を探して見つけた。 そこには唇の色が真っ白で、顔には血色が全く無さった。 さっきまで一緒にいた星はここには居ない。 首には、くっきり付いた血が滲んだ紐の跡が目に焼 き付いた。 震える手で、星の頬に触れた。 温かみのない冷たい頬、動かない体。 冷たい頬に触れて、自分の手から星の体温が感じた。 氷のみたいに冷たい…。 真っ白な唇、動かない体。 ようやく実感してしまったのだ。 あぁ、星は本当に死んでしまったのだと。 もう、あの星の居る日常に、楽しかった時間がもう 一生戻ってこないのだと。 「あ、あぁ…、星…っ、星!!!」 そう感じたら涙溢れ出した。 何回も星の名前を呼び続けて泣き崩れた。 午前2時04分ー   星が死んだのだ。
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