砂の道

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砂の道

私は物心つく前から歩いていた。 そう、ただ歩いていた。 父と娘、二人っきりで歩いていた。 何故歩いているのか。 父は私に説明してくれなかった。 父は寡黙な人だった。 父はわずかな荷物を背中に背負い 背丈ほどの杖をついて歩く。 その杖の穴が後に続いていた。 私の歩いている国は砂の国だった。 辺り一面砂だらけ。 人々は点々とあるオアシスの周囲に住んでいた。 オアシスの周囲を 居住区・牧畜区・農業区と 分けていて、その周りを石で囲い 砂の侵入を防いでいた。 そしてどのオアシスにも、 オアシスに入る門と出る門があるのだった。 オアシスの近くに来ると 水の匂いがふんわりと私の鼻腔をくすぐった。 私はその匂いが大好きだった。 何故なら、何もない砂の世界から 色鮮やかな世界へ入って行くのだから。 オアシスの居住区の真ん中には 飲み水を飲む井戸がある。 その水を飲んで顔を洗い、 父は寺院へと向かう。 私はその間、市場を見て回り、 居住区に行って、同じ年頃の子供達をみつけては遊んだ。 一つのオアシスには短くて数日、長くて数週間 滞在したので、私は遊び相手を作るのが上手くなった。 そしてそれを寂しいとも思わなかった。 子供ながらにそういうものだと割り切っていたから。 止まるのは寺院の宿坊。 宿坊は貧困層のセーフティーネットになっていたので 家族連れが格安で泊まれる場所でもあった。 そして子供達への教育をする場でもあり 遊び場でもあった。 だから私は遊び相手に困らなかった。 そして泊まった宿坊をきれいに掃除すると 私と父は、世話になった僧侶のみなさんに お礼を言って、時間があれば 一緒に遊んだ子供達ともお別れができた。
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