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そして数年が過ぎた。
私は年ごろの娘になった。
だが相変わらず父と二人で
オアシスからオアシスへと
砂の中を歩いていた。
相変わらず、父の杖の跡が後ろからついてきていた。
そしてそんな父は確実に老いていた。
ついに、とあるオアシスの宿坊で
父は倒れた。
「娘よ、どうする?どこぞのオアシスで
好いた良き人でもいなかったのか。
もしそうなら、この寺の高僧が
そなたに家庭を持つ手配をしてくれよう」
「お父さん、それはどういう意味ですか。
私はオアシスからオアシスへ、
旅をすることしか知りません。
今さら嫁に行けといわれても
務まるものではありません」
すると父は苦しい息の下から
「では、私と同じ道を歩むが良い。
私が杖で穴を開けたのをたどって
一度このオアシスの前に寄ったオアシスの
高僧に会いにいきなさい。
そこで生き方を決めるがいい」
「お父さん・・・」
そうして父は息を引き取った。
安らかな顔をしていた。
何故だか分からないのだが、
このオアシスの寺院の
一番の高僧が、父の葬儀を取り計らい、
私に、次のオアシスまでの
路銀を出してくれた。
高僧達は私を見送ってくれた。
私は何故、父の遺品の杖を持った
一介の独り身の女に
ここまでしてくれるのか
分からなかった。
それは前のオアシスで分かるだろう
というのが父の遺言だった。
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