砂の道

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ドームは何だか分からない材質で 半円状になっていた。 (どうやってこの中に入ろう) 私はほとほと困り果てた。 「いけません、何故このドームに来たのですか。 このドームは中にある『何か悪い物』を 覆っています。その悪い物が垂れ流す 奇病を防いでいるのです。 それでも防ぎきれません」 「あなたは?」 「私はこの近くのオアシスの僧侶です。 このドームが破損した時に それを修復する祈りを捧げるお役目を 授かっております」 私はそれを聞いた時、ふとこの辺りが 小さな草が生えているのに気付いた。 「お坊様。この草は安全なのですか?」 すると僧侶は首を横に振って、 「この草を食べた牛は奇病にかかり死にました」 私はお辞儀をして、オアシスの町へ行った。 そして蔓性の豆の種を大量に買い込んだ。 それをロバに摘んでドームへと戻った。 僧侶はそんな私を見たが何も言わなかった。 私はドームの周りに杖で穴を開け、 豆の種を一粒入れた。 そして次の穴を空け、種を一粒入れた。 「貴女は何をされていらっしゃるのですか」 僧侶が不思議そうに尋ねてきた。 私は答えた。 「私は父と同じくこの砂の中に埋もれている 水脈を神通力で掘り当てる力を持っています。 このドームの『何か悪い物』が何だか分かりません。 ですが、この『何か悪い物』も何かの栄養素なのです。 これは私の父の受け売りですが この豆の種はこの『何か悪い物』を栄養として 浄化して育つ作物です。 そしてこの豆は根も蔓も良く伸びます。 うまくいくかは分かりませんが このドームをこの豆で覆ってしまいます」 「そんな根拠のないことをしてどうするのですか」 「いえ、私はこれと同じドームを見たことがあります。 生前父がこのやりかたをしていたのを見ております。 ですからここの土地でも効くはずです」 僧侶は首を傾げたがそれ以上何も言わなかった。 私は何週間もかけてこのドームの周囲を 杖で穴を空けて豆の種を植えた。 植え終えた私は、その僧侶に挨拶をし、 ドームを後にした。 そして一度そのドームを振り向くと 二度と後ろを見なかった。 その後、そのドームが緑の蔓に覆われ、 肥沃な大地になったと風の噂で聞いた。
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