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「どうしたんだよ。今日、何か変だぞ」
顔を伏せたままの羽衣に向き直り、頭を撫でながら問いかける。
こんな羽衣は初めてだ。
「何か理由があるなら教えて欲しい」
しばらくは無言のままだったが、羽衣はポツリポツリと理由を話し出す。
「わかんなくなっちゃったの…。最近忙しくて全然話とかできなかったし、デートもできてない。それに元々告白したのは私からだったし。徹は苦手な人とは男とか女とか関係なく付き合わない人ってのは知ってるから、言葉では言ってくれないけど少しは好かれてるのかなとは思ってるよ。でもこんなにすれ違ってたら一緒に暮らしてても、他の可愛い女の子とかに浮気されちゃったらどうしようとか。私って徹に本当に好かれてるのか、忙しいとか寂しいとかが重なって不安になっちゃったのかも」
俯いたままの羽衣は涙声だ。
泣かせてしまった。
最近のすれ違いや過去のこと、俺の普段の態度で不安な気持ちがどんどん膨らんでいってしまったのだろう。
もしかしたらずっと我慢していたのかもしれない。
確かにあまり気持ちを言葉にするのは得意ではないし、伝えなくても伝わってるだろうと思い込んでいた。
そこまで不安にさせてしまっていたのかと、驚きとショックとで言葉がでない。
「だからこんなのでも聞いてみたら徹の気持ちわかるかなって思ったんだけど…。でも、ごめんね。せっかくの二人でのお休みなのにこんな雰囲気になっちゃって。もう気にしないで!大丈夫」
顔をあげた羽衣は涙目のままに無理矢理作った強張った笑顔で俺を見る。
「今日晩ごはん、何にする?どこかに食べに行く?」
俺が言葉を挟む前に、その場の雰囲気を変えるように羽衣は明るく話しかけてくる。
初対面の時から羽衣はいつも笑顔だった。
むしろ笑った顔しか見たこと無いほどだった。
付き合ってからはいろんな表情を見せてくれていたが、こんなに悲しそうな痛そうな笑顔の羽衣は初めてだった。
そんな顔を俺がさせていると思うと心にズシンと重しがかかったようだ。
羽衣に告白されたあの日を思い出す。
告白したのは私からと羽衣は言ったが、きっと恋に落ちたのは俺が先だ。
告白をOKした時の羽衣の恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな笑顔を見て、俺はきっとこの子に出会った瞬間からこの子の笑顔に恋に落ちていたのだと、この子の笑った顔をずっと見ていたいと、ずっとずっと大事にしていこうと思ったはずだった。
それなのにこの様だ。
全然大事にできていなかった。
こんな顔をさせたくはなかった。
いつだってずっと笑っていて欲しい。
今からでも間に合うだろうか。
羽衣の不安を消せるだろうか。
上手く思いを伝えられるだろうか。
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