記憶の引き出し

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 「その方が私と似ていたんですか?」  彼の話に間ができたので、私は否定の意味を込めてそう尋ねた。確かに私は当時あのスーパーマーケットで働いていた。しかしあそこで商品出しができるのは正社員のみ、私はアルバイトだったので殆どがレジ業務であった。それにいくら幼少期であれ、これだけのイケメンであれば憶えていそうなものだ。なのに記憶に無いということは私ではないはずだ。 「えぇ、あなただと思ったんですが……」  彼は明らかにしょんぼりとした顔で私を見た。 「人違いです、私ではありません」  ってか私は人様の記憶に残るほどの美人ではない。 「そうでしたか。突然お声掛けしてすみませんでした」  彼は申し訳なさそうに頭を下げた。しかし今いるのはそれなりに混み合っている電車の中、ソーシャルディスタンスって何だよ? と言えなくもないが、彼は身動きが取れず立ち去ることもできずにいる。  何か気まずい……かと言って話すことも無いのでしばし沈黙のままやり過ごしていると、再び彼の方からあのと声を掛けられた。
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