記憶の引き出し

　「あのスーパーマーケット、どうなったんでしょうか？」

「へっ？」

　私は再度顔を上げて彼を見た。そういえばどうなったんだっけ？……郷里にいた頃の記憶を辿ってあそこの情報を探してみる。

　私は一年持たずに退職した。その後別の所で似たような仕事を１５年ほど続けたのだが、その間に当時の知り合いは全員そこを辞め、今はどこで何をしているのか分からなくなっている。

　そう言えば、かつての上司があのスーパーマーケットの近隣に住んでおり、私が一時期あそこにいたのを知って情報をくれたことがあった。当時はチラシ商品の激安ぶりが話題になったのだが、当然ながら採算が取れず、【１０００円以上お買い上げで〜】とか条件付きになったと言っていた。

「ネットで調べればいいんでしょうけど、３歳の頃の話なんでお店の名前も憶えてないんです」

　３歳の頃の記憶じゃあ残ってなくても仕方無いのか、かくいう私は現在４５歳、当然ながら３歳の頃の出来事など殆ど憶えていない。まぁそうでしょうなぁなんて思っていたら、当時の上司の声が頭の中で流れてきた。

『あのスーパーマーケット……』

　その声のお陰でいくつかの記憶が蘇ってきた。