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乃愛の声を耳朶に受けた陸は、彼女の首筋から口を離す。
陸の唇とその周りは、戯れの証で紅く染まっていた。
しかし、陸はそれをものともしない。
動作に含みを持たせゆったりと、講義室の扉の前に立ち尽くす人影に向き直った。
待ちに待った昼休み。
空いた教室でお昼ご飯を食べようと連れ立っていた二人の女子学生は、陸に囚われ身動き出来なくなる。
柔らかく波打つ、落栗色の髪の毛。
左耳を飾るピアス。
鋭さを秘めた野性的な両眼は、髪と同じく栗色。
ダメージ加工されたジーンズを履いたその脚は、溜め息が出るくらい長かった。
流行のファッション雑誌に載っていてもおかしくないくらいのスタイル、風貌。
ただ一点。
その歪んだ口元の、汚れ以外は。
長身の陸に隠れるようにいた乃愛の乱れた長い髪、服装。
人気のない大学内の小さな教室で、この二人が今まで何をしていたのかは言わずもがな、だった。
「華夜、行こ」
留以は親友に、耳打ちする。
「お弁当、他で食べよ」
微かに頬を染め、気まずそうに目を伏せながら、留以は素早く提案する。
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