5 玉子焼き

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5 玉子焼き

「華夜子と話をするようになってから、まだ一度も笑った顔を見た事ない。折角の美人が勿体ない」 「それは…!」 笑いたいような事が何もなかったからだと華夜子が言おうとすれば、陸に制される。 「まあ、俺と一緒じゃ、楽しい事なんか何もないか」 自嘲し。 陸は華夜子の頭に置いていた手を()けた。 それから立ち上がり、広く空いてたベンチの左端に座り直す。 二人の間に突如出現した空間。 華夜子は思わず、陸を目で追う。 「午後の講義、始まる時間じゃない?」 今は遠いその場所で、陸は彼女に告げる。 「昼休み、付き合ってくれてありがと」 「あなたは?授業入ってないの?」 「サボり。なんかそんな気分じゃない」 柔らかな栗色の癖毛を手で梳きながら、陸は苦笑する。 「ただでさえ俺といると悪目立ちするのに、わざわざ人目につくような場所に連れて来てごめんね。暫くは俺絡みでなんか言われるかもしれないけど、いいとこ数日だと思う。人の噂なんて、そんなもん。特に俺に関する事なんか(みんな)すぐに忘れる。…だから暫く、我慢してくれると嬉しい」 陸はベンチの肘かけに気怠く左肘を乗せ、頬杖をついた。 「バイバイ、おねーさん」 陸はひらひらと、華夜子に向け右手を振った。
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