5 玉子焼き

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やっと、解放してくれた。 華夜子は、安堵の息を()く。 喜び勇んで構内に戻ろうとした矢先、陸の面持ちに華夜子ははっとする。 華やかで、自信に満ち溢れたいつもとは全く違う、憂いを帯びどこか淋しげで、頼りなさそうな表情(かお)。 それら負の感情とは無縁で生きて行く事も、可能なはずのひとなのに。 立ち尽くしていると、陸がこちら側を見た。 「行かないの?」 不思議そうに陸に、刹那でも彼に魅入っていた自分を恥じる華夜子の頬が染まる。 「俺といつまでもいると、ある事ない事言われるよ?」 彼の半分冗談、半分本気のそれに、早く建物の中に行かなきゃと思うのに。 説明のつかない気持ちに揺れ、華夜子は最終的に浮かしかけた腰を再びベンチに戻した。 「おねーさん?」 陸は頬杖を解いて、まじまじと華夜子を見る。 ついさっきまであんなに帰りたがっていたのだから、それと真逆の事をしようとすれば彼の反応は当然だった。 でも何故ここに残ろうと決めたのかーそれは、自分が一番良く分かっていなかった。 だから説明を欲しがられても不可能だった。
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