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「…サボり」
「え?」
「勉強する…なんかそんな気分じゃなくなったの」
まさかの華夜子の呟きに陸は固まり、それから嬉しそうに双眸を細めた。
すっかり人気のなくなった中庭。
講義が入っている学生が多かったのもあるのだろうけれど、照りつける日光に我慢が出来なくなってきた-それも理由としては大きいだろう。
無言を通し、暫くふたりでベンチに並んで座っていたが、やがて陸が気遣うように訊いてきた。
「おねーさん、暑くない?」
「…そりゃ、暑いわよ」
「だよね。…そろそろ、戻ろっか?」
名残は惜しいが、間違っても熱中症なんかにさせる訳にはいかない。
正直な華夜子に陸は苦笑いし、提案する。
「…もう少ししたら」
またしても信じられない。
さも時間の許す限り、ここにいたいかのような事を言う自分。
日差しの強い中。
この彼と一緒に、この場所にいる意味なんて何もないはずなのに。
そもそも。
大学に入学してから、ただの一度だって講義を欠席した事などなかった。
なのに何故、今日に限って休もうだなんてー。
混乱極める華夜子とは裏腹に、込み上げる心地良い感情に陸の口元は密かに綻ぶ。
けれど嬉しさを表に出す訳にもいかず、陸は当たり障りのない話題を探す。
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