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「…腹減った」
その場を繋ぐ言葉に過ぎなかったのだが、忘れていた空腹感が急激に襲ってくる。
食堂で『さあ食べよう』とした時に昼食を友達に譲ってきたから、当然だった。
「あ」
陸の呟きに、華夜子は声を上げる。
小さな、でも確かな彼女のそれを、陸は聞き逃さなかった。
「何?」
訊き返すが、彼女はしまったという表情をし、完全に口を閉ざしてしまう。
軽い疑問程度だったのに、そんな態度をとられると気になって仕方がなくなってくる。
「おねーさん?」
「…」
「言うなら、最後までちゃんと喋ってよ。気になるじゃん」
「…なんでもない。忘れて」
「忘れられる訳ないじゃん」
陸はベンチの左端から滑るようにして、華夜子に体を寄せた。
「ちょ、ちょっと…!」
華夜子は困り果ててしまう。
寄り添ってくる彼に鼓動が速まってしまうのは、どうしようもない。
誰だってそうなる。
この彼が相手ならば。
彼を特別に思ってるからじゃ、断じてないー。
「…お弁当が、あったなって」
心臓を打つ音が、最高速度に達した時が怖かった。
自分がどうなってしまうのか恐ろしかった。
自分を見失ってしまうくらいなら、喋ってしまうくらいなんでもない。
実際、なんでもない事なんだから。
華夜子は言い淀んでいた事を、遂に白状した。
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