5 玉子焼き

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「…腹減った」 その場を繋ぐ言葉に過ぎなかったのだが、忘れていた空腹感が急激に襲ってくる。 食堂で『さあ食べよう』とした時に昼食を友達に譲ってきたから、当然だった。 「あ」 陸の呟きに、華夜子は声を上げる。 小さな、でも確かな彼女のそれを、陸は聞き逃さなかった。 「何?」 訊き返すが、彼女はしまったという表情をし、完全に口を閉ざしてしまう。 軽い疑問程度だったのに、そんな態度をとられると気になって仕方がなくなってくる。 「おねーさん?」 「…」 「言うなら、最後までちゃんと喋ってよ。気になるじゃん」 「…なんでもない。忘れて」 「忘れられる訳ないじゃん」 陸はベンチの左端から滑るようにして、華夜子に体を寄せた。 「ちょ、ちょっと…!」 華夜子は困り果ててしまう。 寄り添ってくる彼に鼓動が速まってしまうのは、どうしようもない。 誰だってそうなる。 この彼が相手ならば。 彼を特別に思ってるからじゃ、断じてないー。 「…お弁当が、あったなって」 心臓を打つ音が、最高速度に達した時が怖かった。 自分がどうなってしまうのか恐ろしかった。 自分を見失ってしまうくらいなら、喋ってしまうくらいなんでもない。 実際、なんでもない事なんだから。 華夜子は言い淀んでいた事を、遂に白状した。
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