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「嘘だったの?」
華夜子が早々に弁当箱の蓋を閉じようとすれば、陸の低い声がそれを押し止める。
「すげー嬉しかったのに、やっぱり嘘だった?俺の反応見て楽しんでただけ?」
その両眼に浮かんだ哀しみの色に華夜子は怯み、怒鳴る。
「そんな悪趣味な事する訳ないでしょ!あなたじゃあるまいし!?」
「じゃあくれる?」
「あげればいーんでしょ。あげればっ」
辛そうな面持ちから一変。
にこにこと待ち構える陸に、華夜子は地団駄を踏みたくなる。
食べさせてあげる方向に上手く誘導されていた事にようやく気付くが、後の祭りだった。
中庭から学生は殆どいなくなってはいるが、四方を囲む建物からこちらを見下ろしている姿はちらほらと見受けられる。
これぞ正しく、彼が言うところの公開処刑状態だ。
ただ一緒にいるだけで注目を浴びまくっているのに、最早一週間ぐらいじゃ忘れてもらえないかもしれない。
様々思う事はあったが、餌を待つ雛のごとく口を開け放つ彼を、これ以上待たせられなかった。
華夜子は覚悟を決め、箸で玉子焼きを掴んだ。
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