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肩に掛けた鞄から財布を取り出し、小銭を投入口に入れる。
ボタンを押そうとすれば、なんの前触れもなく背後からいきなり伸びた指に先を越された。
ガタン。
取り出し口に、ペットボトルが落ちる音。
心臓がどきどきし、固まったままの華夜子は、すぐには反応出来ない。
その隙に後ろにいた人物が自販機に歩み寄り、長身の体を屈め、レモンティーのペットボトルを取り出した。
「はい、おねーさん」
今日も憎いくらい綺麗な顔で、にっこりと差し出してくる。
一刻も早くこの場から立ち去りたいのだが、度重なる驚きに華夜子の足はなかなか動いてくれない。
「昨日は驚かせてごめんね、おねえさん?」
扇情的な微笑みと共に囁かれ、華夜子はようやく彼から力づくでペットボトルを奪った。
腰まで伸びた華夜子の長い髪が、意思を持った生き物のように揺れる。
「こえーなあ」
落栗色の前髪を掻き上げ、陸は苦笑する。
そんな彼を冷ややかに一瞥し、華夜子は無言で陸の脇をすり抜ける。
「待ってよ、おねーさん」
付き従うようについて来る彼が、最高に鬱陶しい。
だけどここで相手をすれば、余計面倒な事になるのは確実だった。
鞄にレモンティーを押し込み、華夜子は歩くスピードを加速させた。
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