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「おねーさんってば」
けれど脚の長い彼にとっては、この程度の速さなど造作もないらしい。
追いつかれ、すぐに肩が並んだ。
余裕すら感じられる陸の口調と笑みに、やはり我慢は出来なくなる。
「さっきからおねーさんおねーさんって、一体なんなの!?あなた私の弟か何か?」
華夜子は立ち止まり、陸を睨み付ける。
廊下を往来する学生達の注目の的となるが、今の華夜子にとってそんな事はどうでも良かった。
何故だか知らないけれど、自分に纏わりついて離れない厄介な存在。
一刻も早く、それをどうにか遠ざけたかった。
「だって、おねーさんじゃん」
しかし当の本人は華夜子の迫力に物怖じもせず、しれっと言い放つ。
「ね。俺の一個上の、経済学部三年、御堂華夜子さん」
全てを見透かしたような陸の両眼に、華夜子の頬が火照る。
「…乃愛に訊いたの」
魅入られないように明後日の方向を見ながら、華夜子は吐き捨てるように呟く。
昨日の昼休み、彼の相手をしていた彼女。
特段親しくはない。
でも会えば挨拶は交わすし、雑談程度もする、クラスメートのひとりだった。
陸は華夜子の質問に答える代わりに、カラーコンタクトを入れた茶色い瞳を細めた。
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