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「あっそう」
これ以上彼のペースに巻き込まれないよう、華夜子は素っ気なく返答する。
今度こそ講義室に向かおうとすれば、長身の陸が立ちはだかる。
「…まだ何かあるの」
ただでさえ今朝は気分が優れない。
募るいらいらを隠し切れず、華夜子は陸を見上げた。
「講義が始まるから、もう行きたいんだけど」
「俺も次の講義は本館」
真正面を指差し、陸は笑った。
本館に向かうには、この真っ直ぐな廊下を渡るしかない。
つまり、ここを歩いてる自分は、本館に行こうとしてると嫌でも彼に知らせてるようなもの。
やられた-思ったけど、もう手遅れだった。
「…さっきお友達と、真逆の方向に進んでたよね?」
「あいつらとは、履修してる授業が違うから」
あっさりかわされる。
絶対嘘だと分かっていながら、対処のしようがない。
華夜子は深々と溜め息を吐く。
並んで歩くなんて冗談じゃない。
せめて半歩でも彼の先を行くよう、必死に足を動かすしかなかった。
そんな華夜子を、陸は面白そうに追う。
「おねーさん、もしかして俺の事、嫌ってる?」
「教室であんな場面見せられればね」
「だから謝ったじゃん」
「やりたきゃ、ラブホでもなんでも行けば。超迷惑。もてる男は女を取っ替え引っ替え大変ね」
最大級の厭味のつもりだったのに、しかし陸には全く効いてない。
それどころか、逆に何故か驚かれた。
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