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1 最悪の出会い
唇と唇の間から漏れる、声。
お互いの唾液と唾液の混じり合う、音。
激しいキスを交わし、彼女は長いつけ睫に縁どられた瞳で媚びるように彼を見つめた。
「陸、もっとして?」
彼の首筋に両手を回し、グロスで艶やかに光る深紅の口唇で誘う。
陸が噛み付くように唇を奪い、舌を絡め、首筋へと伝えば、彼女は恍惚とした表情を浮かべる。
彼が這った跡が、赤い絵の具を薄めたような色に染まってゆく。
「りく…もっと、して?」
昂りの絶頂にある彼女から、更なる刺激を要求される。
けれど、彼女とは裏腹に冷静な陸の脳が、これ以上はここでは無理だと判断する。
だって、この場所はー。
無理難題を押し付ける彼女を説得しようとしたところで、背後から金属音がした。
次いで、扉が軋む。
息を呑む声が、後方から聞こえた。
陸の軽く癖のある、柔らかな栗色の頭を抱え込んだままの彼女は、突如開かれた真正面のドアに一瞬固まる。
「華夜子…留以」
綺麗に塗られていた口紅がいまやすっかり剥げた唇で、乃愛は呟いた。
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