病院にて、母と。

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 車から降りる前に、母が言った。 「ねえ、病院の中って、自販機ってある? 喉乾いちゃって」 「あるよ。制服返したあとなんか買ってこようか?」 「いい。自分で選びたいから私も行く」 「そう」  ということで二人で車から降りた。  この時間は病院の表の入り口は閉まっており、警備員のいる裏の入口からしか入れない。なので、そこから入った。  防災センターという名称の受付で、受付係の警備員の指示に従い、紙にどういった理由での訪問かを書き込む。母のことは付き添いだと言っておいた。私が記入した紙に警備員が判子を押すと、「どうぞ」と言われたので、私は母に自動販売機の場所を「あそこだよ」と指差し、ついでに「そこで待っててね」と言い、自分は元職場の事務所へと向かった。  事務所の前に到着し、扉をノックしたが応答はない。「失礼します」と一声かけて中に入った。が、この時間は夜間の清掃で事務所に人はいないようだ。仕方無しに制服を置き、お世話になりました。という旨のメモ書きを残し、母が待っている自動販売機の場所へと戻るために歩きだした。  病院の通路は主要部以外、節電のために消灯している。霊などは信じない性分であるが、夜の病院は結構不気味なものである。  私は朝から夕方までの清掃担当だったので、この時間に清掃をしている人たちは、気味が悪くないのかなと、たまに思っていた。  そんな事を考えていたら、自動販売機が見えてきた。だが、母がいない。おかしいな、どこだろう。自動販売機の場所に近付いて行ったが、やはり母はいなかった。
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