学院編入

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律斗と、呼ぶことに決まって話が途切れたとき、燈夜に話しかけてきた。 「お、おい」 そんな少し震える声で後ろから声をかけられたものだから、燈夜は一体なんだろうか、と思ってそちらの方を振り返った。 振り返ると、紅汰が顔を真っ赤にして燈夜の方を見ていた。その赤い髪と同じくらい。それが自分でもわかっていて、恥ずかしいのか、彼は少し俯いていた。 (な、なんだろ?……髪、真っ赤だぁ) 「はい?何でしょうか?」 「…………………」 「あの?」 「…………」 「えっと……緋逆先輩?」 「!!」 燈夜が名前を呼んだ瞬間に、勢いよく顔を上げた。 真っ赤な顔は何かに驚いている様子だったが、燈夜は何に驚いているのかよく分からなかった。 (え、名前呼んだからじゃないよね?) その通りである。 紅汰は燈夜の可愛らしい声で名前を呼んでもらえたことに驚いていた。 その心中は察するに余りある。 「オ、オレのことも紅汰って呼べ!」 「…………?」 「なっ!なんだよ!嫌だっつぅのかよ!」 「あ、いえ……そういうわけでは」 「じゃあ、呼べよ!」 「えっと……友達になりたいってことですか?」 「……?」 「あ、僕は親しい人にしか下の名前で呼ばないって決めているんです」 燈夜にとって名前は特別なものだった。 家の名前ではなく、その人、個人を示す名前で呼ぶことは燈夜にとって、相手個人を認めていることと同意義だった。 それは自分の名前にも言えることで、相手から名前で呼んでもらえることは、自分を家のことは関係なく、個人として認めて貰えているような気にさせるものだった。 「そうなのか?……友達……友達……」 「あの?」 「まぁ友達からでいいか……。先ずは、友達としてよろしくな!」 「あ、こちらこそ。えっと……紅汰先輩」 「かわっ……」 「?何か言いましたか?」 「なっなんでもねぇ!あ、燈夜、連絡先交換しろ」 「いいですよ。役員のこととかもあるでしょうし」 「そーゆんじゃ……」 「紅汰先輩?」 「りょ、りょーかいりょーかい!役員のことも・あるもんな」 紅汰と連絡先を交換したところで、他の役員の視線があからさまになったことに、燈夜は気づいた。 (律斗が近づいてきたときからだったけど……なんで此方見てるのかな?羨望?嫉妬?そんな感じだなぁ) 「あの、なにか?」 燈夜は他の役員に問いかけた。 そんな燈夜の問いかけに、直ぐに答えたのは豹と、雅、律斗、夏希、氷雨だった。 彗は此方を見つめるだけで、罹央は我関せず、豪は呆れたように此方を見てから部屋を出ていった。 「だってーずるいよー」 「先輩の言うとおりですね」 「ホントだよぉ。ボクの方が先に友達になったのにぃ」 「本当に。バカな人のわりに行動だけは早いんですから」 「ちゃうちゃう。バカやから、考える前に動いとんのや。それにしても、紅汰ずっこいわぁ」 紅汰は散々な言われようである。 燈夜は何が狡いのか今一理解できていないが、各々の言っている事からして自分と紅汰が連絡先を交換したこと、に対して言っているのだろうと推察した。 それならばと、燈夜は役員全員と連絡先を交換した方が色々と便利なのではないかと思い立った。 (役員の事だけじゃなくて、各々どんな人か見極めていかないといけないし……) 「あの、全員で交換しておきませんか?その方が便利でしょう?」 その一言で全員納得した。 なんだかんだ、此方の様子を伺ってるだけだった彗も、我関せずだった罹央も燈夜の言葉を聴いて連絡先を交換した。 燈夜は役員全員としたが、各々の役員はまだ確執があるのか、連絡先は交換していないようだった。 とりあえず、1限目の役員顔合わせは無事に終わった。 ◇◇◇ 大道寺side___ 燈夜様から連絡が入りました。 何でも、役員全員の顔写真付きの資料用意の指令と、連絡先を交換した……というものでした。 役員だけでなく、あの白鳥グループの総帥とも。 また、放課後の役員会議にて役員全員の役職が決まった、ということ。更に、今年から生徒会と風紀委員を合併して、生徒会が風紀も取り締まる、というものでした。 (役員の負担は増えるが、各族チームのトップ並びに幹部が風紀も取り締まる方が、効果的・効率的にも利にかなっている、か) そして肝心の役職は、くじ引きにより生徒会長となってしまったそうです。何故、そんな大事なことをくじ引きで決めるに至ったのか、私には推察できませんでした。 ですので、聞きました。 『それがね、皆、学院の方針も昴さん・・・の言ってることも理解できるし、納得はしたけど、なるべく面倒でない役職が欲しいって言い始めて……』 「なるほど。それで、燈夜様が公平を期するために……ということですか?」 何やら、聞きたくない名前・・・・・・・・が、それも先日よりも親しい呼び名で呼ばれた気がしましたが、無視させて頂きます。 『流石、大道寺』 「お褒めに与り、光栄でございます。しかし、何故くじ引きなどと……いくらでも不正の働けるものではないですか」 『そうなんだけどね~……くじ引きは当事者じゃなくて、第3者に作らせなきゃいけないよなぁって思うよ』 言葉に含まれている意味を理解しました。 くじ引きは、燈夜様が態々お作りになり、役員に引かせていったのだと。 「では、燈夜様の思うままの役職に就いたのですね。役員全員は、何故疑わないのでしょうか……OBとして、実に嘆かわしい」 『そんなに言わないであげてよ。何せ、僕がくじ引きを引かせたんだから』 「左様でございますか。私でも燈夜様にかかれば『引かせたいものを引かせる・・・・』確率は5割以上ですからね。鍛練していないものなど、必ず引いてしまうのでしょう」 『大道寺はなかなか引っ掛かってくれないからなぁ』 「燈夜様が私をよく知るように、私も燈夜様をよく理解していますから。それでも、燈夜様には敵いませんが」 『ふふ。大道寺は口が上手いからなぁ~……あ、そうだ。僕、もうそろそろ帰れそうだから迎えに来てね?昴さん・・・がさっきからメールとかで送るって煩いから』 「畏まりました。直ぐ様お迎えに上がります」 『う、うん?よろしくね』 はい。気のせいではありませんでした。 燈夜様は、白鳥グループの総帥を下の名前で呼んでいらっしゃいました。 なんということでしょう……。 あの白鳥様おとこを認めている、ということなのでしょう。私も、白鳥様やつの経営者たる手腕や、上に立つものとしての器は認めますが、燈夜様が名前を呼ぶことには、異議申し立てをしたいところです。 (本当に……腹立たしい……) 燈夜様に下心のある輩が近づいたらどうなるのか、その身体みを持って経験していただきたいところです。 (燈夜様が望まぬことをするのならば……) 私共・は今までも、これからも、燈夜様のために、燈夜様が望まれることを全身全霊をかけて遂行いたす所存です。 (私共、燈夜様付き全使用人が……) 燈夜様のために生きることが、私共の存在する目的ですので。 ___悦んで、抹殺させていただきます。 「では、お迎えに上がりますか」
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