お仕事①

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午後からは、燈夜は自分の仕事かだいを片付けていた。 と、いっても殆ど海外留学中の様々な実地試験のレポートを纏めるといったものだ。 纏めた後に現地にレポートを送って、実地試験で感じたことや、改善点を伝えて、各々の組織が更なる発展を見込めるようにする。 そして、燈夜は実地試験・演習しゅぎょうをする組織は表も裏も・・己の利になるところを選ぶ。 寧ろ、利になるところを選ばなくてはならない。 それが、燈夜の次期当主としての修行かだいだった。 「この間のイタリアのやつが、やっと書き終わったよ~」 「お疲れ様でございます。イタリアでも・・裏の仕事だったのですか?」 「そうだよ~。イタリアのは、大道寺を呼ぶほど、ヤバいことにならなそうだったから、さっさと終わらせたんだけどね」 「左様でございましたか。しかし、万が一ということも、考えられますので」 「そうなんだけどさ。イタリアの仕事仲間は優秀だったし」 「……では、フランスの、あの本拠点を壊滅させる時は現地の者だけでは力不足だったと」 「ま、安全第一だからね。結局大道寺は後方支援って感じになっちゃったけどね」 「私は後方支援でも構いません。他の使用人がその分、燈夜様の役に立っていましたので」 「本当に、皆には感謝してるよ~。皆にあんなこと・・・・・させるのは、なるべく避けたいけどね」 燈夜は東雲家次期当主として、綺麗な表社会だ学んでいればいい、なんて存在ではなかった。だからこそ、裏の仕事も嫌でも経験していかなければならなかった。 東雲家は表の顔も、裏の顔もある財閥だった。 しかし、燈夜がそれを語るのは先の話である。 ◇◇◇ 仕事を片付け、帰る準備をしていたとき、燈夜と大道寺はこの階に誰かが足を踏み入れた気配を感じた。 直ぐ様、二人は臨戦態勢・・・・に入るが、徐々に近づく気配が知った者の気配と同様のものだと悟った。 臨戦態勢をといて、部屋のなかに見られてはいけないものがないか、確認する。それが済んでから、燈夜は大道寺に近づいてくる人物を中に入れるように目配せした。 ガチャリ 「お入りください」 「どうしたんですか?___昴さん」 二人が感じ取った気配は、昴だった。 二人が気づいていたように、また、昴も扉の向こう側で扉に近づく気配を感じていた。 そのため、ノックもせずに扉が開いて迎え入れられることに驚きはしない。 「ああ、来週のデートプランの相談は直接のほうがいいと思ってな」 「あ~……そ、のことですか……」 「燈夜様……この塵かたがおっしゃっていることは、どういうことですか?」 (あ~……お昼休憩の時に、言っとけばよかった……大道寺が怖いよぉ~) 「燈夜から聴いていなかったのか?」 「えっとね……大道寺、その」 燈夜はことの経緯を大道寺に話した。 最終的には、納得はしないけど、経緯は理解できた様子だった。 「で、燈夜は何処か行きたい場所はないか?」 「家」 「ふっ……初めてのデートで俺の・・家に来たいのか?燈夜は意外と大胆だなぁ」 「ち、違います!僕の家に帰りたいんです」 「燈夜の家に行って俺と過ごすのか?それはそれで……」 「昴さん解ってていってるでしょ……」 「デートする約束したんだから、それを反故にするのは、いけないんじゃないのか?」 「うう……」 燈夜が困っている様子を見せたため、大道寺が昴をたしなめる。 「屑野郎しらとりさま、あまり燈夜様を苛めないで頂きたい」 「苛めてないだろ?過保護な執事だなぁ?」 「その様なことは御座いません。 そもそも、過保護とは子供などに必要以上の保護を与え、その子供が本来できるであろうことまで保護者が行ってしまうことです。 なので、この様なことにあまり免疫のない、燈夜様が困っていらっしゃったご様子なので、私が僭越ながら申し上げたまでです」 「執事の分際で、俺に楯突くとか……燈夜のところの奴は面白いな」 「はぁ。大道寺、僕は大丈夫だからあまりそういうこと言っちゃダメだからね」 「失礼いたしました」 「俺は頭のいい奴から何か反抗される分には寛容だから、気にしてない」 「ありがとうございます。ところで、行き先なのですが……決めていいですか?」 「ああ。決まったのか?」 「はい。ここに」 「本当にここか?」 「絶対にここです」 「はぁ。俺がまさか……これも惚れた弱みだな」 燈夜は昴に行きたいところを告げた。 それを聴いて昴は、一度は考え直すように言ったが、最終的には折れて部屋を後にした。 「じゃ、僕たちも帰ろうか」 「はい」 その後二人も部屋を後にした。 ◇◇◇ 豹side___ 昨日、役員全員が召集されて、放課後に役職をくじ引きで決めた。 オレは、面倒な役職はやだったから、くじで引いた役職はそこまで面倒なものじゃなくて一安心だった。 そもそも、オレは誰かの上に立って纏めるなんて柄じゃないと思う。それに、人を信頼できない・・・・・・奴が、人に信頼されることをするなんて無理な話だろ。 だから、役員なんてやりたくなかった。 それでも、彗が同じ役員としているから、オレもカタチだけでもって思った。 (ま、そもそも断れるわけないんだけどねー) 族チームのWトップとか、言われてるけどそんなの彗が全部纏めてくれてるだけだし、オレはそもそも彗以外の奴等なんて信頼してないし、興味もない。 オレには彗だけいればいい。 そう思ってた。 彼が来るまでは___ 初めて見たときは、一種の感動を覚えるくらい見惚れた。それくらい、綺麗な存在だった。 彼はオレの後ろの席になった。 そして、秘匿事項の彼に彗が興味を示してた。 最初は秘匿事項の子だからかな、と思ったけど彼を見る目とか、声とか、普段なら絶対見せない優しさがあった。 だから、直ぐに違うと思った。 (彗のやつ……一目惚れでもしたわけ?) オレはそんな風に思ってた。 だから、オレも興味を持った。 ただの興味が、好意に変わったのは放課後のことだった。そう、役職を決めるとき。 オレは『会計』を引き当てた。 オレは地味な作業だけど、予算見積もりとか、配分とか、帳簿とかつけるのは嫌いじゃなかった。中学のときにも、親の会社で親より仲良かった知り合いのことを手伝ってたから。 でも、ソイツはずっとオレのことを裏切っていた。 オレが手伝ってたのは、嘘の会計書類だった。ソイツの私腹を肥やすためにオレは手伝わされていた。 オレがそれを知って、直ぐに親に言って、ソイツはクビになった。 オレはクビになったとき、ソイツのところに行って問い詰めようとした。でも、ソイツはオレにいった。 『オマエさ、世間知らずのお人好しだよなぁ?人を簡単に信じてさ。笑いを堪えるの大変だったよ。ま、おかげで、楽に仕事ができてたからいいけどさ。とうとう、バレちゃったけど』 ソイツはそう吐き捨てた。 それ以来、人を簡単に信じてはいけないモノだと知った。そして、人が信じられなくなった。 裏切られるのが、怖くなった。 だから、軽い口調とかに変えて、他人と一定の距離をとるようにして、心の底から信じられる人を作らなくなった。 ノリだけで、カタチだけの偽者ともだちをつくった。 それと同時にオレは他人から信頼される人間ではなくなった。 それでも、彼は___ 『一安心って顔してるけど、会計って、生徒会では地味な方だけど、本当は生徒会で凄く重要な役職なんだよ? 予算見積もりとか、配分とか、帳簿だって、信頼できる人・・・・・・にしか任せられない、大切な仕事なんだよ。 特に、この学院では結構なお金が動いたりするだろうからね。 でも、豹が会計を引き当ててくれて良かった! だって、豹なら・・・、僕は信頼できるから』 何を思って、彼はそう言ったのだろう。 何を考えて、彼はそんな事言うのだろう。 『えー?オレってそんなに燈夜に信頼してもらえてるのー?なんでー?オレってこんなんだよー?』 『ふふ。豹って面白いよね。そんなに、警戒・・しないでほしいなぁ。僕は君を裏切ることはないから……僕は彗にはなれないけど、彗みたいに本当の・・・君から信頼を得られるように会長としても、個人としても頑張るね』 『!!』 『少しずつで、いいから』 『……』 オレは彗以外に、偽りの自分を指摘されたことはなかった。彗はオレに、自分を信頼しなくてもいいから、一緒に族チームを組んで協力してほしいと言った。 そして、彗は偽りのオレではなく、本当のオレは信頼できる人間だと。 (おんなじこと……いや、それ以上に) 彗はオレに信頼されようと特別なことはしなかった。 それでも、オレが信頼してもいいと思った。 自分から信じてもらえるように頑張る、なんて人オレは初めて出会ったよ。 (本当のオレか……) オレなんかに信じてもらえなくても、彼にはデメリットなんてないじゃないか。 (燈夜は不思議な子だなぁ……) それでも目を見て話す、彼の真剣な目は、信じてもいいと思えるものだった。 (それにしても……やっぱり綺麗で可愛いなぁ) ずっとオレをその目にうつしていて欲しい。 (オレ、燈夜のこと、好きになったかも……) オレも燈夜から信頼されるように、頑張ろうかな、なんて柄にもなく思うくらいだ。 (燈夜に裏切られたら……) 彗にはこんな感情持たなかったのに。 (オレは) 「……い、おい、豹!」 「うわっ!な、なにー?彗?」 「燈夜からメールの返信来てるぞ」 「ほんとだー。カフェテリアは、無理かー」 「ま、予測してたけどな」 「あと、2週間も生徒会ないのかー。ってことは、授業免除の燈夜と会える時間がー」 「仕方ないだろ」 「ん?でも、その間燈夜も暇なときがあるなら……」 「豹?」 「んー?何でもないよー。カフェテリアに行こっかー」 豹は彗に見られないように、燈夜にメールを送った。 そして、オレはさっきの続きを思い返す。 きっと裏切られても、彼ならば___ (惚れた弱み……かな) オレは赦してしまえるのだろう___
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