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あっという間に1週間と数日が流れた。
そして、とうとう週末の金曜日の放課後___
「燈夜、迎えに来た」
「……態々、すみません」
「燈夜様、私も」
「執事はついてこなくていい」
「貴方に聴いておりません」
「はぁ。昴さんも、大道寺も……仲良くしようよ。何で最初から険悪なの……」
「……申し訳ありません」
「大道寺、僕は大丈夫だから。帰りに迎えに来て、連絡するから」
「畏まりました」
「じゃ、燈夜行こうか」
◇◇◇
昴の車で向かった先は、キャバクラやホストクラブ、バーが建ち並ぶ場所だった。
学院から離れた場所であるため、ここまで来るのにもうすっかり日は落ちて、各々の店は既に開店していた。
「なぁ、燈夜。初デートがここって」
「いいじゃないですか。昴さんが僕に何処に行きたいか聴いたんですから」
「それはそうなんだが……それにその格好で……」
「仕方ないじゃないですか。この格好じゃないと入れないと思いますし」
昴は燈夜のことだから、何処でもいいとか、無難な行き先を言ってくると思っていた。
しかし、燈夜が提示したのは、その真逆。
さらに、店のサイトまで見せてきて、連れていけというのだから。
「こんなのデートじゃないだろ」
「そもそも、男同士でデートって言いませんよ。デートは男女の付き合いのことですから」
「揚げ足とるなよ……そうじゃなくてだな、今回のってどうせ」
「はい。僕の仕事の1つですよ」
「だろうと思った。麗香・・さんの?」
「はい。よくご存じですね?」
「パーティーでよく会うからな。仕事の話もするんだよ」
「そうですか」
そう、今回昴に連れてきてもらった店は、燈夜の母親の仕事関係のところだった。
「それより、執事と来れば良かったんじゃないのか?何で俺となんだ」
「そうなんですけど、大道寺だと遊ばせてくれないので」
「あー。なるほどな、でも、その格好だと俺でも遊ばせないからな」
「そんなこと言わないでくださいよ。折角着替えて変装・・したんですから」
「俺がそんな格好してる燈夜を遊ばせるわけないだろ。しかし、仕事だからなその格好を人前にさらすのは譲歩するが、遊ぶのはだめだ」
燈夜は自分の格好を見る。
シンプルな黒の膝丈ワンピースに、薄ピンクのローヒールパンプス、緩く巻いた鎖骨までの茶色のウィッグ。
さらに、薄く化粧を施した見た目はどこから見ても、美少女だった。
「似合いませんか?」
「似合ってる。だからこそ、遊ぶのはだめだ。」
「うー……内部調査なんですから、そこら辺は勘弁してくださいよ」
「内部調査って……」
「あまり詳しいことは、言えませんけど。このお店は最近、よくない噂があるので」
「……ヤバくなったら、何をしてでも止めるからな」
「わかりました。じゃ、行きましょうか」
そういって燈夜と昴は、入っていく。
きらびやかな店構えの___
「はぁ。ホストクラブで初デートかぁ」
ホストクラブに___
◇◇◇
店に入ると、もう既に席が殆ど埋まっていた。
燈夜と昴が入り口に立つと、少しして黒服が声をかけてきた。
「当店は会員制なのですが。会員制はお持ちでしょうか」
「ええ。持っていますよ。これでいいかしら?」
「はい。確認できました。あの、この店で男性の同伴は「お願い?この人も入れて?私のお財布みたいなモノだから。ね?」」
「……」
昴の機嫌が一気に悪くなった。
しかし、それに燈夜は気が付いたが、とりあえず無視して、黒服が言いかけたところで、その前に燈夜が直ぐ様遮って、上目使いに懇願する。
絶世の美少女に化けている燈夜にそんな事をされては、黒服の男は、無下にはできない様子になった。
そこで、黒服の後ろから派手な格好をした男が現れた。
男は、黒服と燈夜たちが入り口で揉めている様子を見て確認しに来た者だった。
「何~?どうした~?」
「それが」
「ん?っうっわ!めっちゃカワイー娘じゃん!」
「……」
「あ、その、この方が男性の同伴も認めて欲しいと」
「あー?男ぉ?」
「あ、彼は私のお財布みたいなモノなんです。だから、ダメ?ですか?」
「……」
「あー彼氏とかじゃないんだぁ~……別にいんじゃない?オレ一応ここの店長だから、キミのお願いなら特別許可してあげる~」
(へぇ……さっそく当たり・・・を引いたなぁ……。それはともかく、さっきから昴さんが怖い!)
「本当?ありがとう!」
「その代わり、キミはオレが接待するね」
「て、店長っ……それは」
「あ?うるせぇな。じゃ、行こっか?」
「あ、はい」
黒服が何か言いかけたが、それを遮って店長である男は、燈夜と昴を2階のVIPルームへ案内する。
二人が部屋に入ると、広々とした空間に色々なお酒の香りが充満していた。
(凄いお酒の匂い……でも、|それだけじゃないっぽいな)
燈夜はお酒の他にも別の匂いがしていることに気が付いた。それこそ、今回の内部調査の仕事内容であった。
(媚薬……だよなぁ)
燈夜はこの店で媚薬を使って、女性客に猥褻行為、また酷いときは淫行まで働いている、という報告の真相を確かめるべく内部調査に来ていた。
燈夜本人が来るに至ったのは、早急な解決のため。証拠を押さえて、報告して……等の段取りを踏むことなく、証拠を押さえた瞬間にこの店を潰す段取りを整えていた。
(まあ、ただ単にどんな媚薬なのか実際に体験したかったんだけど……媚薬関係は試したことなかったし)
「ふふ。今回は遊べそうだなぁ」
燈夜の呟きは誰に聴かれることなく、扉の閉まる音だけが部屋に響いた。
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