彼女にとっては

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スマホに画像が映し出された。 身体を寄せる男と女。 周囲には花びらが舞い、 女は満たされた笑みを浮かべている。 どう見てもたまみだ。 そして、画像の中の彼女はどう見ても……、 「……ウェディングドレス?」 「綺麗でしょう? 私結婚したの!」 高らかにたまみが宣言する。 「あなたと別れてすぐ婚活を始めたのよ、 そしてとても良い人に出会ったわ!  これであなたは、私にとって過去の男の一人に過ぎなくなったわけ!  どう? いつまでも私の人生の中心に居座れると思ったら大間違いよ!」 誰もそんなことは思っていない。 「ちなみにこれ、一年前の写真だから。 今でもしっかりラブラブだから!」 いや、聞いていない。 「ああ、すっきりした。これでようやくお別れね。 じゃ、私、旦那のところに帰るわ!」 突き出したスマホを優雅にポケットへ戻し、 たまみは歩き出す。 俺はその横顔に思わず言った。 「俺達って、五年前に別れてるよな……?」 ヒールの音が鋭く止まる。 たまみがキッと俺を睨む。 「関係ないって言ってるでしょ!」 ヒールの音が再開し、 たまみはあっという間に夜道へ消えた。 俺はコンビニの駐車場に立ち尽くす。 前へ出した弁当を、元通り身体の横にぶら下げる。 ややあって、彼女が消えていった夜道にぽつりと。 「……お前も、俺と大差ないじゃん……」 彼女とは別の道へ歩き出す。 弁当がすっかり冷めてしまったことだけは よくわかった。
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