彼女にとっては

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「ねぇ。覚えてる?」 背後からの声にぎくりとする。 振り返ればコンビニを出てくる女が一人。夜陰の中でもくっきりとした目鼻立ちに覚えがあった。 「……たまみ」 「そうよ、久しぶり。 まだこのコンビニ使っててくれてよかったわ、 捜し出す手間が省けたから」 名前を呼ぶなり、 勝ち気に笑んでつかつかと駐車場を横切ってくる。 俺はその場から半歩後ずさる。 「さ、捜し出すって何だよ?」 「決まってるでしょ、私あなたに復讐するの」 「復讐…っ?」 「覚えてるのよね?  二十歳から四年間、その気もないのに結婚ちらつかせて私との関係を引っ張った挙げ句、同じ会社の女に心変わりして別れを切り出してきたでしょう?  あんなことして、 後腐れなく人生歩めるとでも思っていたの?」 たまみの片手がポケットへ突っ込まれる。 俺は思わず弁当の袋を身体の前に持ってくる。 「わ、悪かったと思ってるよ…!  でももう、五年も前のことで」 「何年経ったかは関係ないわ。 私はこうしないと気が済まないの」 「そ、その時の子とも、もう別れたし……」 「関係ないって言ってるでしょ!」 俺の真正面で、 たまみはポケットの手を引き抜いた。 握られているのはナイフ── ではない。スマホだ。 紅を引かれた唇がにたりと笑う。 「見なさい。これが私の復讐よ」
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