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「隣いい?」
「どうぞ。」
最初に彼と交わした言葉はこの程度だったと思う。
人間関係もこざっぱりさせた私の隣りはいつも空いていることが多かった。
サークルにも入らず、バイトもせず。
お節介で裕福な家庭に生まれた私は仕送りだけで十分なキャンパスライフを送ることができた。
毎日、授業を受けて。財布を見ながら献立を立てて。課題を片付ける。そんな日常がずっと続いていた。
はたから見たらつまらないキャンパスライフなのだろうが、私からするととっても充実していた。自分のものは自分で手に入れる。必要のないものは関わらない。
私は経済的にも精神的にも自由そのものだった。
そんな私の隣の席に座った彼は私と真反対の人だった。
70人を越えようとするアカペラのサークルに積極的に参加し、多くの人から慕われていた。
バイトも積極的に行い、そのお金で買ったであろうシンプルながら品質の良さを感じさせる服装が似合うような学科の中心人物だった。
この時は特に何とも思わなかった。
今日はたまたま人がいるな。くらいにしか思わなかっただろう。
まさか、この人が自分の人生を大きく変えることになるなんて当時は夢にも思わなかっただろう。
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