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そんな彼と私に一つだけ共通点があった。
それは大学の授業に対するモチベーションだった。
私は大学に入るまで大学生というものについてとんでもない勘違いをしていた。
大学生とは学びたい学問があって、そのために必死に受験勉強を乗り越えてきた戦友たちの集いだと本気で思っていたのだ。
それこそが大学の本質だと私は思っていたが多くの大学生はそうではなかった。
そのことに気づいたのはグループディスカッションでの授業だった。
グループで話し合う課題は
「資本主義の名目のもと、行われる無駄な生産ははたして許されるものか?」
という課題だった。
私はこの課題にひどく興奮したことを覚えている。そうか。あれだけ母が無駄なものを買ってくるのは現代の発達しすぎた資本主義の結果なのだと本気で思ったことを思い出す。
私は
「無駄な生産は何も産まない。生産者にも消費者にも迷惑しか生まない」
ということを強く熱弁した。
私の意見に賛成してくれる人も、反対意見を持つ人も。この議題でとても盛り上がれるだろうとわくわくしていた。
しかし、周囲のリアクションは私の求めていたものとは大きく剥離していた。
まんまるの目をぱちぱちさせて。周りをキョロキョロしながら
「たしかにそういう意見もあるかもね〜」
としか言わない女子A
自信なさそうに俯いてスマホをいじりながら
「それでいいんじゃない?」
としか言わない男子A。
じっくりとこちらを見つめてしかこない男子B。
この雰囲気の中で私は察した。
この大学は自由の喜びを。学問の喜びを知らない変わった人たちが多いと入学してからずっと感じていた。
違う。変わっているのは私の方だったんだ。
とその時気づいた。
そうか、こんなものだったのか。
と落胆し適当に自分の意見をまとめようとした時に男子Bがいきなり手を挙げてこう話した。
「たとえそれが無駄であろうと、世の人々は便利になろうと。より豊かになろうとしてきた。その精神だけは否定するのはよくない。」
と。
私はその時、戦友を見つけた気持ちになった。
その戦友は過去に私の隣に座ったことがあることを思い出した。
名前は樹という名前だということを覚えた。
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